管理費回収が困難な時どう対処するか

2020年10月23日(金)、ビステーション福岡天神にて行われた「滞納管理費等回収セミナー」の講師 中島法律事務所 中島繁樹弁護士に、今回のテーマについて解説していただきました。

法律のしくみのうえでは、管理費はかならず回収することができることになっています。修繕積立金もおなじです。なぜかというと、その部屋の区分所有権がとうぜんに管理費の担保になっているからです。その部屋の区分所有権は、その専有部分と敷地の共有持ち分から成り立っていますが、その区分所有権が譲渡されたり相続されたりして第三者に移転しても、それにともなってその第三者はそのまま滞納管理費の支払い義務を負担することになっています。あたかもその部屋の区分所有権といっしょに、その部屋の滞納管理費の支払い義務もその第三者に移転する、という状態になるのです。

区分所有者の管理費支払い義務は、管理組合の立場から見ると、管理費請求権です。この管理費請求権があるかないかは、最終的には裁判上の請求よって確かめられなければならない、というのが法律のしくみです。

この管理費請求権の消滅時効の期間は5年です。裁判所の判決で管理費請求権の存在が確かめられますと、その時効期間は更新されて、その更新の時から10年になります。

相手がどこに住んでいるのか、その住所をさがす

この裁判上の請求は、かならずその区分所有権者本人を相手方としてしなければなりません。

裁判ではかならずその滞納者本人を相手にしなければなりませんので、その滞納者がそのマンションから出て行ってしまっておれば、まずはその転居先を突き止めなければなりません。

その場合は、マンションに住んでいたときの住民票の登録の内容を調査するというのが、ふつうのやり方です。福岡市内でしたら、住所地の区役所の住民登録の係に行って、その滞納者の住民票の写しの交付を請求するのです。

その交付請求をしに行く人は滞納者本人ではありませんから、どういう理由で交付請求をするのかの説明を、その区役所の係の人にしなければなりません。自分はその滞納者が前に住んでいたマンションの管理組合の役員だという説明をするのです。

すでに登録から除かれた住民票の記載のなかに、予定の転居先の住所が書いてあれば、おそらくその住所が新しい住所です。転居先住所の届け出がないときには、その住民票の除票の記載からは、滞納者の現住所はわかりません。

そのときは、その滞納者の本籍地の役所に戸籍附票の交付請求をして、現住所を探しだすというやり方をします。戸籍を管理する本籍地の役所は、戸籍の附票というしくみを用意しています。戸籍の附票には、どこに住民登録があるかが書かれているのです。

ですから、転居先不明の人の行先をさがすために区役所で住民票の交付請求をするときは、その住民票写しに本籍地の表示をしてもらうようにするのです。滞納者が住民登録をそのままにしていて、行方がまったくわからないということもあります。そういうときは、裁判手続きは公示送達という特別の手続きで行います。公示送達というのは、相手に送る書類を裁判所の掲示板に2週間掲示することで、相手に届いたものとみなすという方法です。

区分所有者死亡のとき相続人をさがす

区分所有者が死亡したとき、その区分所有権は、その滞納管理費の支払い義務とともに、相続人に相続されます。相続人は配偶者、子、親、兄弟、の範囲内で法律上決まります。

相続人が誰であるかは、戸籍の調査をすればわかります。戸籍は被相続人の本籍地にあります。本籍地がどこかは、住民票の記載によって確認します。

相続人がいないときは家庭裁判所に申し立てをして、相続財産管理人を選んでもらうことになります。家庭裁判所が選んだ相続財産管理人が、その遺産について換価と債務弁済をすることになります。つまり相続財産管理人はその区分所有権を処分して換価し、その代金で未払いの滞納管理費を支払うことになるのです。

相続人の全部が相続の放棄をすれば、けっきょく相続人はいないことになりますので、この場合も相続財産管理人の選任をしてもらわなければなりません。

相続財産管理人の選任申し立てを管理組合がする場合、その申し立てにあたって、申し立て人はふつう、あらかじめその管理人費用として30万円程度を裁判所に納めることになっています。この30万円を将来回収できそうかどうか、よく検討しておく必要があります。

区分所有者が判断能力を失ったときはどうするか

区分所有者本人に認知症といわれる状態が見られるようになっても、そのこと自体は、管理費を毎月きちんと支払ってもらうことに特別の支障はないはずです。

いわゆる認知症にかぎらず、本人が生活上の通常の判断能力を失ったときでも、裁判上の請求をその滞納者本人に対してすることに支障はありません。

裁判所から区分所有者本人あてに書類の送達をするのですが、このとき本人にふつうの判断能力がないために、その本人が書類の受領を拒むということが起こります。その部屋にいるのにいないふりをする人もいます。これでは、裁判所は書留の郵便を送ることができません。

裁判手続きとしては、かならず書類は本人に届けなければならないことになっていますから、書類の送達が書留郵便という方法でできないという事態は、かなり面倒なことなのです。

郵便局員による配達ができないときは裁判所は、裁判所の執行官を使って直接に書類を届けます。執行官送達という方法ですが、これは夜間あるいは休日に本人が在宅していそうな時間に直接持っていくのです。

本人がそこに住んでいることがはっきりすれば、裁判所は書留郵便を発送するだけで配達されたものとみなす扱いをすることもあります。このときは、その書留郵便が、本人の受領拒否によって裁判所に返送されることがあったとしても、発送のときに届いたものとみなされるのです。

裁判上の請求をするときにどこまでの金額を請求するか

滞納管理費の消滅時効は5年です。しかし時効というのは、請求を受けた人が時効の利益を受けたいと言って、とくにそのことを希望する場合にだけ適用されるものです。

ですから、管理組合が訴訟を起こすときは、5年以上滞納しているときでも、その提訴の時点の滞納金の全部について請求するのがふつうです。

管理規約にその定めがあれば、訴訟に要する弁護士費用もあわせて請求するのがふつうです。

2020年4月1日以降に発生した滞納金の遅延損害金について、法定の利率が年3パーセントになっています。管理規約で特別の利率を決めておれば、それによります。

その区分所有権の登記において先順位の抵当権が設定されているとき

ふつうは滞納管理費について裁判所の判決を取得しますと、管理組合としてはその判決にもとづいて、その区分所有権に対して強制競売の申し立てをすることになります。その区分所有権を裁判所で売却して、その売却代金の中から滞納管理費について支払いを受けるのです。

その区分所有権に先順位の抵当権があるときは、その区分所有権を差し押さえて競売に付するという方法では、滞納管理費の回収が困難なことがあります。

抵当権というのは、その登記簿上の登録の順番で、その物件の価値を担保として把握するものです。根抵当権というのもありますが、これは一定の期間内で、増減する債権を極度額の範囲で、物件の価値を把握するというものです。そういう抵当権が、先順位でその区分所有権に設定されていますと、管理組合が裁判所の判決を得てその物件に対して強制の競売の申し立てをしても、その物件の売却による代金の中から配当を受けるときは、配当の順番は、先に設定されている抵当権の次になります。

物件売却の代金が抵当権の被担保債権の額よりも多いときは、競売申し立てをした管理組合にも配当金が回ってくるでしょうが、抵当権の被担保債権の額の方が多ければ、せっかく競売申し立てをしても配当金をもらえないということが起こります。

判決にもとづいて管理組合が強制競売の申し立てをしますと、裁判所はすぐに物件評価の手続きを始めますが、その物件の評価額が先順位抵当権の被担保債権の額に満たないという見通しになったときは、その時点でその競売手続きを取りやめにして、競売開始決定を取り消します。せっかく競売の申し立てをしても、その取り消しによって手続きはそこで終了します。

マンションの競売手続きの場合、裁判所は申立人に一律60万円の予納をさせる運用をしていますが、競売開始決定が取り消されれば、すでに予納したお金のうち物件評価手続きに使われた約25万円はもう戻ってこないということになるのです。

区分所有法59条競売の許可を求める訴え

その区分所有権に先順位の抵当権がついていて、しかもその被担保債権の額が大きくて、管理組合が強制競売の申し立てをしても売却代金から配当を得ることができないという見通しのとき、管理組合には滞納管理費を回収するための最後の手段があります。

それは区分所有法59条競売の申し立てという方法です。

先順位の抵当権の被担保債権が物件価格を超えて設定されていても、その物件が競売で売却されてしまえば、管理組合としては、その売却後の物件取得者から以後の月々の管理費を支払ってもらえるようになり、さらに過去の滞納分も新規の物件取得者から支払ってもらえるはずです。こういうことを可能にする方法がこの59条競売という方法です。

管理組合はこの方法を取ることを希望するときは、裁判所に対して、この59条競売の申し立てを許可してほしいという訴訟を起こさなければなりません。

その訴訟において、管理組合は、滞納している管理費および修繕積立金の回収がこれ以上遅延すると管理組合の運営に重大な支障が生じるという状況、つまり滞納額がかなり多額になっているということを、証明しなければならないことになっています。