公務員集合住宅各戸へのビラ配布 最高裁で有罪判決
【平成20年4月11日最高裁】
東京都立川市所在の防衛庁(当時)立川宿舎は、10棟からなる鉄筋4ないし5階建ての共同住宅です。そこへ「立川自衛隊監視テント村」の構成員3名が平成15年秋に3回にわたって、各号棟の1階出入り口及び各室玄関ドアの新聞受けにA4版大のビラを投かんしましたので、宿舎の管理者は警察へ住居侵入の被害届を出すとともに、「宿舎地域内の禁止事項 ・・・関係者以外、地域内に立ち入ること ・・・ビラ貼り・配り等の宣伝活動」などと書いて各号棟出入口フェンス、掲示板、集合郵便受けの上部壁に掲示しました。
しかし、3人はさらに平成16年1月17日に立川宿舎内の敷地内に立ち入り、分担して各棟各戸郵便受けにビラを投かんしましたので、管理業務に携わっていた者は警察に住居侵入の被害届を出しました。さらに、平成16年2月22日には2名の者によってビラの投かんがなされ、被害届が提出されました。
これらの行為によって3名の者は起訴され、一審の東京地裁八王子支部では、「被告人らの行為は住居侵入罪に該当するが、刑事罰に処する程度の違法性はない」として無罪を言い渡しました。しかし、この控訴を受けた東京高裁では「被告人の行為は邸宅侵入罪にあたる」として罰金刑を言い渡しました。
これに対して罰金を言い渡された被告人らが上告し、平成20年4月11日、最高裁第二小法廷で判決が言い渡されました。判決文では「各室玄関ドアの新聞受けに政治的意見を記載したビラを投かんする目的で、職員及びその家族が居住する共用部分及び敷地に管理者の意思に反して立ち入った行為は、管理者の権限を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するもので、刑法130条(住居侵入等)に該当し、これは憲法21条1項(表現の自由)に反しない」として上告が棄却され、罰金刑は確定しました。
政治的意味合いは別として、マンションにもピンクビラ入れや不法侵入者がありますが、この対策として、きちんと掲示物で禁止し、警察に被害届を提出する方法が示されました。
かつて、東京都葛飾区にある7階建て分譲マンション「メゾン亀有」では、玄関ホールに管理組合名義で「チラシ・ パンフレット等広告の投函は固く禁じます。」「当マンションの敷地内に立ち入り、パフレットの投函、物品販売などを行うことは厳禁です。
工事の施工、集会などのため訪問先が特定している業者の方は、必ず管理人室で『入退館記録簿』に記載の上、入館(退館)願います。」と書いたはり紙が掲示されていたにもかかわらず、マンション内に入り、政党ビラを各戸へ投函した事件について、住民からの連絡により亀有署の警察官がビラ配布者を逮捕し住居侵入罪で告訴した事件が発生したことがあります。
東京高裁では有罪判決
この事件で東京地裁は平成18年8月28日、「マンションのはり紙は、商業ビラを対象とするものであり、政治ビラ配布は禁止していない」として、ビラ投かん者に無罪を言い渡しました。
しかし、この控訴を受けた東京高裁は「チラシ・ パンフレット等広告の投函禁止」は商業的広告に限定されているとした地裁の解釈は誤りで、政党ビラの禁止も含まれるとしました。
また、弁護人は、政治ビラの配布は憲法によって保障された政治的表現の自由に基づく行動であり、最大限尊重されるべきと主張しましたが、東京高裁は、住民の意思に反する立ち入りまでを住民が我慢すべきものではないとして平成18年12月11日、地裁判決を破棄し、住居侵入罪の成立を認め、罰金5万円を言い渡しました。