◆ 「2025年」マンション改修工事の動向と課題
「2025年」マンション改修工事の動向と課題
株式会社 松澤建築設計事務所 取締役会長
一級建築士 松澤 康博
◆マンションストックの現状
現在、分譲マンションストック数は2023年末時点で約704.3万戸、そのうち旧耐震マンションが約103万戸、高経年マンションと言われる、築40年以上のマンションが約136.9万戸あり、10年後には倍の274.3万戸に増加する見込みであり、マンション改修の需要は今後、更に増加する事が期待されています。福岡県内のマンションストックは約37.7万戸で、築40年以上のマンションが約4.6万戸存在しています。
◆改修工事現場における現況
福岡市内には約8000棟の分譲マンションがあり、年間約800棟のマンションにおいて大規模改修工事が行われていると推測されます。
このような状況の中、建設業界では、労働者不足や資材費の高騰等といった課題に直面しています。特に建設現場での高齢化が進んでおり、若年層の技術者が不足していることは「福管連だより」でも何度か寄稿してまいりました。
2024年4月から施行された「働き方改革関連法」により建設業では時間外労働の上限は原則として、1カ月45時間、1年360時間となりました。上限時間を超えて労働させた場合は罰則の対象となります。このため現場での作業時間が制約されるため、工事の進行が遅れることにより、スケジュール調整が混乱する現場も出てきています。
しかしながら、最近の改修工事現場では、以前と比較して、労働環境の改善はかなり進んでいると思われます。また、週休二日制を導入している現場も増えてはきましたが、時間外、土日での打ち合わせや会議等が、一部の現場では見られます。このような事例が続くと、長期に渡る工事の場合、作業員の確保が難しくなることが懸念されます。
今後、労働時間の短縮に対応していくためには、施工業者、監理者、管理組合それぞれの役割と責任において協力体制を構築していかなければ、工事の品質、現場の安全体制、適正なコスト管理等がうまく回っていかないことになります。
それに加えて、労働環境の改善を計るためには工事発注者側の理解と協力も、必須条件となります。
◆労働安全衛生規則の改正
特に足場からの墜落防止措置が強化され、これにより作業員が安全に作業できる環境が整備され、工事現場での事故のリスクが低減する事が期待されます。
◆働き方改革の高年齢労働者への配慮
建設業における【エイジフレンドリーガイドライン】(高年齢労働者の安全と健康を確保するためのガイドライン)が策定され、高齢者の特性に配慮した職場環境の整備が求められています。また、労働者の身体機能の低下に対するリスクアセスメント(作業における危険性や有害性を特定し、そのリスクを低減するための対策を検討する手法)や、作業内容の見直しが推奨されています。
◆働き方改革施行に伴う労働環境の変化
2025年の働き方改革により、マンション改修業界は改革後の労働環境に適応していくための新たな改善策を実行していくことになります。作業員の待遇改善を図るために、労働時間の短縮や賃金の平等化が求められ、同一賃金、同一労働の原則が守られることで、業界全体の労働環境が改善されることが期待されますが、改修業者側はコストの増加、工期の見直し、作業スケジュールの調整等の問題に直面することになります。
しかしながら、今回の働き方改革は、建設業界全体での人手不足が深刻化する中で、若年層の就業促進に寄与する可能性も考えられます。待遇改善や労働環境の向上が進むことで、建設業界への新規就労者が増え、必要な人材を確保しやすくなるかもしれません。このことにより、工事の効率化や品質の向上が図られる可能性が期待できます。
◆マンション改修における今後の展望
マンションの大規模改修工事は、今後も増加傾向にあります。マンションの共用部改修工事市場は、2027年は7,444億円(出典 矢野経済研究所)に到達すると予測されています。
◆マンション改修における新技術の導入
働き方改革を実現させるためには新技術や新工法の導入も不可欠となっています。最近では、新しいソフトの導入により調査結果箇所写真や劣化箇所集計表、下地補修図をタブレットに取り込むことにより、調査員の時間短縮を計ったり、ドローンを駆使する事により外壁調査や屋根面の調査、点検が容易にできるようになり、高所作業の危険性を減少させることを実現することも可能となります。
また、工事の進捗状況をDX化(デジタルトランスフォーメーション化)し、居住者に工事の進捗状況やお知らせ事項を、ディスプレイにて情報発信することもできます。
◆労働環境の改善
労働環境の改善は、企業間の競争力向上に大きく寄与すると思われます。労働者が働きやすい環境を提供することで、企業は優秀な人材を確保しやすくなり、結果として業界全体の生産性向上に繋がるはずです。これらの要素が相まって、働き方改革がマンション改修業界における労働環境の改善に大きく貢献していくことが期待されます。
以上