業務知識・判例
<第8回>判例に学ぶマンション法
大庭法律事務所 弁護士 大庭康裕 氏
役員ひぼう行為の共同の利益違反
(最高裁平成24年1月17日判決)
 マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布するなどする行為が、建物の区分所有等に関する法律6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地がある場合の判決
1.事案の概要

 本件は、神奈川県所在のマンション(以下「本件マンション」と言います。)の区分所有者であるXが、同じく本件マンションの区分所有者であるYにおいて、(1)本件マンションの管理組合(以下「本件管理組合」と言います。)の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布する行為、(2)本件マンションの防音工事や防水工事を受注した各業者に対し、趣旨不明の文書を送付したり工事の辞退を求める電話をかけたりしてその業務を妨害する行為、(3)本件管理組合の役員等に対する暴行行為など(以下「本件各行為」と言います)を続けており、これが建物の区分所有等に関する法律(以下「法」と言います。)6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たると主張して、法57条又は本件マンションの管理規約に基づき、他の区分所有者の全員のために、Yに対し、本件各行為の差止めを求めた事案です(なお、本件マンションの管理規約に基づく請求については、同請求に係るXの上告受理申立て理由が受理決定において排除されたので、本件では判断が示されていません)。

 1、2審は、Xが問題としている各行為は、騒音、振動、悪臭の発散等のように建物の管理又は使用に関わるものではなく、被害を受けたとする者それぞれが差止請求又は損害賠償請求等の請求手段を講ずれば足りるのであるから、これが法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たらないことは、Xの主張自体から明らかであるとして、法57条に基づくXの請求を棄却すべきものとしました。

 そこで、Xは、このような1、2審の判断は、法6条1項の「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」の解釈において、共同利益背反行為の該当事由を狭く解しすぎているとして、最高裁判所に上告したものです。

2.最高裁の判断
 以下のような理由で、原判決の57条に基づく請求の関する部分を破棄し、原審の東京高裁に差し戻しました。
 法57条に基づく差止め等の請求については、マンション内部の不正を指摘し是正する者の言動を多数の名において封じるなど、少数者の言動の自由を必要以上に制約することにならないよう、その要件を満たしているか否かを判断するに当たって慎重な配慮が必要であることはいうまでもないものの、マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し、マンションの防音工事等を受任した業者の業務を妨害するなどする行為は、それが単なる特定の個人に対するひぼう中傷等の域を超えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」があるというべきである。
3.実務の指針
 マンションには多数の区分所有者が居住しており、しかも、売買や相続等により住民の入れ替わりが予定されているので、マンションの管理にあたって区分所有者全員の合意を得ることは難しい場合が多いと思います。そこで、管理組合の方針に不満がある一部の区分所有者が、@役員らに対するひぼう中傷行為をするとか、A管理組合に依頼された業者の工事を妨害することもあり得ます。

 そのような場合、ひぼう中傷された役員らが個人として差止請求又は損害賠償請求をすることも考えられます。しかし、管理組合の業務執行に関してひぼう中傷を受けているのであれば、それは役員ら個人の問題に止まらず、管理組合の業務執行に対する妨害行為とも言えますので、法6条1項の「共同の利益に反する行為」として、法57条1項に基づき行為の停止その他必要な措置を採ることができないかが問題となります。

 今回ご紹介する最高裁の判例は、法57条1項の差止め等請求が、少数の区分所有者の言動の自由を制約することにないよう慎重に考えるべきとしつつ、単なる特定個人に対するひぼう中傷を超えて、管理組合の業務の執行や運営に支障が生じるなど、マンションの正常な管理又は使用が阻害される場合は、法6条1項の「共同の利益に反する行為」があると指摘しています。
このように、最高裁は法6条1項、57条1項の「共同の利益に反する行為」に当たるかどうかの判断について、実質的に考える立場に立って、一部の区分所有者が管理組合の役員をひぼう中傷する行為の差止めも可能な場合があることを明らかにしました。このことは管理組合及び管理組合の役員になられた方にとっては朗報といえます。


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