業務知識・判例
<第7回>判例に学ぶマンション法
柴山真人法律事務所 弁護士 柴山 真人 氏
管理規約の「違約金としての弁護士費用」の意義
(東京高裁平成26年4月16日判決)
1.事案の概要

 マンション管理組合が、管理費等を滞納していた区分所有者に対し、マンション管理規約に基づき未払管理費のほかに、東京弁護士会の旧報酬基準に準拠した報酬基準に基づいて算出した弁護士費用の支払いを求めた事案です。本事案自体は、一般によくある訴訟の形態でした。

2.争点 弁護士費用として区分所有者に請求できる範囲はどの範囲か?
 まず、前提として、訴訟を提起するに際し、自分が依頼した弁護士に支払う弁護士費用を相手方に請求して負担させることはできないのが原則となります。例外的に、交通事故などに代表される不法行為(民法709条など)に基づく損害賠償請求の裁判の際に、裁判所が認めてくれた治療費などの損害金の約1割相当額を被害者の弁護士費用分の損害として加害者に対する請求を認めてくれることがあるに過ぎません(ただ、多くの場合、裁判所が認めてくれた弁護士費用分の損害の請求だけでは実際に自分が支払うことになる弁護士費用のすべてを賄えることはほとんどなく、不足した弁護士費用分はやはり自己負担となります。)。納得しがたいところかもしれませんが、相手方に責任があって裁判となった場合でも、自分が雇った弁護士費用は自己負担となるのが原則なのです。

 従って、仮に、管理規約において、管理費等を滞納した区分所有者に対し弁護士費用も加算して請求できるという規定を設けていなかった場合には、その区分所有者に弁護士費用を負担させることは難しいことになります。本件では管理規約で、弁護士費用について「区分所有者が管理組合に支払うべき費用を所定の支払期日までに支払わないときは、マンション管理組合は当該区分所有者に対し、違約金としての弁護士費用を加算して請求することができる」との規定がありました。この規定は国土交通省の作成にかかるマンション標準管理規約に依拠する内容です。従って、本件で、マンション管理組合が管理費等を滞納した区分所有者に対して弁護士費用を請求できることは問題ありません。

 しかしながら、管理規約に記載されている「違約金としての弁護士費用」の記載内容が弁護士費用の実費相当額(全額)なのか、裁判所が認定する相当額(一部)なのか明確でないとも思えることから、その範囲について争いになることがありました。そして、本件で「違約金としての弁護士費用」の意義が争点となり、東京高等裁判所が判決文の中でその判断を示したものです。
3.東京地裁(原審)の判断
 原審(東京地裁平成25年10月25日判決、平成25年(ワ)第4048号管理費等請求事件)においては、概略、「違約金としての弁護士費用」とは裁判所によって認定されるべき相当額(一部)であり、弁護士費用の実費相当額(全額)ではないとの判断をし、50万円の範囲で弁護士費用の加算を認めました(なお、未払管理費等の元本は459万5360円です。)。
下級審の裁判例の多くは弁護士費用の実費相当額を当然に認めていますので、若干異質な判決内容ということができますが、上記原審以外にも同様の判旨の判決を下している裁判所はこれまでもありました(東京地裁平成19年7月31日判決参照)。
4.東京高等裁判所の判断
 本判決は、「債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されているから、管理組合が区分所有者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得る。

 しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点からは問題である。そこで、本件管理規約・・・により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定めているのである。

 このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される(その趣旨を一義的に明確にするためには、管理規約の文言も「違約金としての弁護士費用」を「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。)」と判示し、マンション管理組合が区分所有者に対し弁護士費用の実費相当額(102万9565円)を請求することを認めました。
5.本判決の評価

 本判決は、多くの下級審判決や実務の運用に沿う判断であり、是認できるものです。結局、管理費等を滞納し責任がある区分所有者と全く責任がない管理組合のどちらに弁護士費用の負担をさせるべきなのか、また、どこまで区分所有者に負担させるべきなのかという利益衡量の判断の下で、本判決は弁護士費用を全額、責任のある区分所有者に負担させるべきという判断をしたものです。マンション管理組合が管理費等を滞納している区分所有者に対し、弁護士費用の負担があって裁判に踏み切れずに結局泣き寝入りをせざるを得ないという不合理な事態が生じなくさせる意味でも東京高等裁判所が明確に弁護士費用の実費相当額全額を加算して区分所有者に請求ができることを明確に判示したことは意味があるものと評価できます。もっとも、本判決では触れられていませんが、東京弁護士会の旧報酬規定を大きく超えるような弁護士費用を区分所有者に請求した場合(例えば、500万円の管理費等の滞納を請求するにあたって300万円の弁護士費用を加算して請求した場合など)にも、裁判所がその弁護士費用の実費相当額の全額を認めるのかというと、必ずしも全額を認められるとは限らないと考えます。

 なお、本判決では、管理費等を滞納している区分所有者に弁護士費用の実費全額を負担させる趣旨をより明確にするために、管理規約を「違約金としての弁護士費用」との文言から「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」との文言に変更するのが望ましい旨も判示しています。この指摘は傾聴に値しますが、実務上、このような管理規約の変更を行っている管理組合が多いとまでもいえず、また、国土交通省の作成の最新の標準管理規約(平成28年3月発表)においても「違約金としての弁護士費用」との文言をそのまま変更なく使用していることからすると、この文言を変更するためだけに管理規約の変更手続きを行うまでの必要性は高くはないと思います。もっとも、管理費等の滞納を少なくするためにも、マンション管理組合としては、管理費等の滞納があった場合には弁護士費用全額を加算して請求することになることを、各区分所有者に周知徹底する努力は必要かと思います。

 なお、そもそも管理規約の中に裁判の相手方になる区分所有者に対して弁護士費用を加算して請求できる旨の規定がない管理規約も散見されますが、管理費の不払いを減らす効果もありますので、この規定がないマンション管理組合は早急に管理規約の変更手続を行うべきかと思います。



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