業務知識・判例
<第5回>判例に学ぶマンション法
いかり法律事務所 弁護士 碇啓太 氏
住居専用規程の違反と使用禁止命令
 マンションの1室を税理士事務所として使用することが住居専用と定めた規約に違反し区分所有者の共同の利益に反するとして使用禁止が命じられた事例(東京高裁平成23年11月24日判決)
本判決の要点

 区分所有者は建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならず、これに違反した場合には他の区分所有者の全員又は管理組合法人がその行為の停止等を求めることができるとされています(区分所有法第6条1項・第57条)。
 本件は、マンションの管理規約において住居専用規定の対象とされている専有部分を税理士事務所として使用することについて、住居専用規定に違反し、かつ、区分所有者の共同の利益に反するとして、税理士事務所としての使用の禁止を命じたものです。
 原審が税理士事務所としての使用を、共同の利益に反しているとは言えないとして、管理組合の請求を棄却したのに対し、これと異なった判断を示したものです。

事案の概要
  1. 本件マンションが建築された昭和44年当時、住居専用規定はなかった。
  2. 昭和58年5月に規約改正が行われ、区分所有者はその専有部分を専ら住宅として使用するものとし他の用途に供してはならない(住居専用規定)とされた。
  3. 昭和58年12月に税理士Yは購入して本件建物部分は住居用として使用していた。
  4. 上記住居専用規定の成立後である昭和59年12月にYは本件建物部分を税理士事務所として使用するようになった。
  5. 本件マンションの管理組合Xの役員らは平成19年8月頃に税理士Yによる住居専用規定違反を知り、XはYに対しその是正を求めましたが、了承が得られなかった。
  6. 管理組合Xは平成20年に本件建物部分の使用が住居専用規定に違反するものとして、管理規約に基づき税理士事務所としての使用禁止を求めて本訴を提起しました。
裁判の経過
(1) 原審(東京地方裁判所)の判断は、請求棄却、税理士Yの勝訴でした。
原審は、次の3つの理由から共同の利益に反しているとはいえないとしました。
  1. 本件マンションの2階以上の専有部分で、平成6年に皮膚科医院や歯科医院があったことがあり、現在もカラオケ教室が営まれている等住居以外に使用されている部分があり、住居専用規定が厳格に適用されてきたとはいえないこと。
  2. Yの税理士事務所があるために日常的に騒音等の多大な被害が生じているとはいえず、良好な居住環境が維持できなくなっているとは認められないこと。
  3. Yの税理士事務所の存在が住居専用規定の目的に反しているとはいえないこと。
(2) これに対して本判決は,管理組合Xの請求を認め、Xの勝訴としました。
原判決を取り消して、Yに対して税理士事務所としての使用を禁止する命令を発したのですが、その主な理由は、以下の2点でした。
  1. Yは住居専用規定が設けられた後に本件建物部分を取得しており、当初住居として使用した後に税理士事務所として使用するようになった。
  2. Yの使用は住居専用規定に違反していると認め住居専用規定は空文化しており規範性がない等のYの主張に対し、Xは住居専用規定を含めた管理規約の周知を図るとともに、住居専用規定に反する使用方法がなされている場合には住居専用規定に沿った使用方法となるよう努め、実際にもそのように使用方法が変化している。
マンションの専有部分の目的外使用が問題となった事案についての裁判例
(1) 使用禁止請求を肯定した裁判例(横浜地判H6.9.9,東京地判H18.3.30)
マンションの専有部分を幼児のための保育室や託児所として使用しているもの
(2) 使用禁止請求を否定した裁判例(東京地判H17.6.23)
マンションの住居専有部分について、区分所有者からの賃借人がカイロプラクティック治療院として使用していたことがマンション管理組合の管理規約に違反し、区分所有者の共同の利益に反しているものの、管理組合は、他に多数の用途違反があるのを放置したまま本件使用禁止請求をしており、管理組合の請求が権利の濫用に当たるとして、使用禁止を認めなかった。

実務指針
(1) 本判決は、保育室や託児所など騒音や人の往来が問題となるような使用態様ではない税理士事務所としての使用について、住居専用規定に反するとして使用禁止をしました。従って、事例判断ではあるものの、住居として使用していない場合に、その使用態様が必ずしも現実に良好な住居環境に多大な被害を与えていないときであっても、共同の利益に反するとして使用差し止めが認められる可能性を示唆しています。

(2)

また、本判決では,上記否定裁判例との比較でみれば、管理組合が住居専用規定に反する使用の禁止に努力してきたことが評価されたものです。

(3)

以上のことから、管理規約に住居専用規定がある管理組合としては、その規定の周知を図るとともに、違反を発見した場合には地道にその是正を求める活動をしていくべきでしょう。


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