業務知識・判例
<第2回>判例に学ぶマンション法 近江法律事務所 弁護士 鳥居玲子
会計担当理事による横領と理事長の責任

 管理組合の会計担当理事の管理費着服につき、理事長らの責任が一部認められた事例(東京地裁平成27年3月30日判決)

  1. 事案の概要(細部を省略・変更しています)
     X管理組合では、13年間にわたりA理事が会計担当理事を務め、管理組合名義の銀行預金口座の預金通帳や印鑑、キャッシュカードを管理していました。毎月5月に開催される定期総会では、前年度の収支決算報告書の承認が行われていました。

     A理事は、定期総会前に、毎回、収支決算報告書を作成し、預金口座の残高証明書をつけて会計監査役員に提示していました。実は、その残高証明書はAが偽造したもので、収支決算報告書の内容も虚偽でした。Aは理事であった13年間の間に、管理費や修繕積立金から、5,500万円を着服横領していたのでした。

     ようやく事態を知ったX管理組合は、Aに対して損害賠償請求訴訟を起こし、裁判所は、5,500万円についてAの賠償義務を認めました。しかし、Aには資力がなく回収が困難です。

     そこで、X管理組合は、当時の理事長、副理事長、会計監査役員を被告とし、Aの着服横領について善管注意義務違反があったとして、5,500万円の損害賠償を請求する訴訟を提起しました。


  2. 東京地裁の判断
    (1)会計監査役員の責任
    裁判所は、以下の理由から、会計監査役員の責任を認めました。
     会計監査役員は、A理事が作成した前年度の収支決算報告書を確認点検し、会計業務が適正に行われていることを確認すべき義務があった。
     しかし、会計監査役員は、定期総会直前に示された虚偽の収支決算報告書の記載と、Aが偽造した残高証明書の残高を確認しただけで、預金通帳を確認しなかった。
     Aが偽造した残高証明書はワープロで作成されたもので、体裁も銀行発行のものとはかなり異なっていたのに、会計監査役員は安易に信用した。預金通帳の確認も容易なはずなのに、残高を確認しようともしなかった。
     したがって、当時の会計監査役員には、善管注意義務違反が認められる。

    (2)理事長の責任
    裁判所は、以下の理由から、理事長の責任を認めました。
     理事長は、前年度の収支決算報告書を作成して総会で区分所有者に報告する義務がある。A理事が会計を任され、また会計監査役員が会計監査をしていても、やはり理事長は最終的な責任者であるから、Aが作成した収支決算報告書を確認・点検して適正に行われていることを確認すべき義務があった。
     しかし、理事長は、定期総会直前にAから簡単な説明を受けただけで、預金通帳の確認をせず、会計監査役員に指示を出したり監査状況を確認することもしなかった。
     したがって、当時の理事長には、善管注意義務違反が認められる。

    (3)副理事長の責任(否定)
    裁判所は、副理事長は、理事長の補佐のほか、共用部分の保守管理などの他の職務を分担していたものであり、会計事務について具体的な権限がなかったとして、責任を認めませんでした。

    (4)会計監査役員と理事長の責任の範囲
    裁判所は、以下の理由から、理事長と会計監査役員の責任を9割減としました。
     理事長も会計監査役員も、別の仕事に就いており、夜間・休日に管理組合役員の仕事をしてきた。謝礼もごくわずかであった。
     定期総会は、日曜日開催であるのに本人出席数はわずかで、役員以外は数名しか本人出席していなかった。大多数の区分所有者は、組合の運営に関心がなく、役員に任せるままにしていた。
     各区分所有者も、役員の選任監督など一定の責任があるのに、運営を役員任せにしていたことも、Aの横領行為が継続した原因の一つである。
     Aの横領行為による損害を理事長と会計監査役員のみに負担させることは相当でなく、過失相殺を類推して、責任を9割減とする。

  3. 実務の指針
    ・管理組合役員が行った横領行為について、横領行為をした本人だけでなく、理事長や監事など他の役員が責任を問われることがあります。管理組合の役員は、特に会計事務については慎重に確認し、安易に残高証明書を信用せず預金通帳の原本を点検するようにしましょう。
    ・ 区分所有者が、組合運営を一部の役員に長年任せきりにしていた場合、この判決のように、役員の責任が減額されてしまう可能性があります。区分所有者は、常に組合運営に関心を持ち、長年にわたり一部だけに役員の負担を押し付けることのないよう気を付け、定期的に役員を交代して常に新鮮な目で会計事務を確認点検するように心がけるべきでしょう。


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