業務知識・判例
<判例紹介>  理事長の助っ人になる判例紹介(20)

役員は必ず総会決議を守らねばならないか?
 11階建て、66戸のマンションです。1階に店舗を所有しているA組合員が、「自分の店舗前の共用部分だけ、大規模修繕工事の実施を保留する、と理事会決議し工事を行わない」として、管理組合には工事の実施を求め、理事長には200万円の損害賠償を求めて、東京地裁へ提訴しました。その平成24年3月28日付の判決を紹介します。
  1. A組合員の主張
     A組合員は「総会で大規模修繕工事の実施を決議したが、正当な理由がないまま、Aの店舗前の共用部分の工事だけは実施を保留する、と決議し工事を行わない。理事会は総会決議事項を変更する裁量権はない。管理組合は工事を実施せよ。また、B理事長兼修繕委員長は、最終責任者として修繕工事を全うする義務を負っている。正当な理由がないのに、工事を実施しないのは、役員として当然行うべき義務を怠ってAの権利を

  2. 管理組合及び理事長らの主張
     管理組合と理事長の主張は、以下のとおりです。
     店舗前の共用部分の工事だけを保留したのは、Aが「無許可で店舗前の共用部分に設置している室外機及び看板を,工事後は元に戻すことを認めよ。そうしないと室外機等を移動させない」と無許可の規約違反工事を認めよ、と身勝手な主張をしたからである。

     総会の議決は、(1)理事に対し執行することを義務付ける議決とA義務付けではなく執行を授権する議決がある。(2)の執行を授権する議決の場合は、理事らその総会の議決の内容を執行しなかったとしても違法性の問題は生じない。本件は(2)に該当する。なぜなら修繕工事はさまざまな問題に対して、法規を遵守しつつ、法令と議決のどれが優先するかを判断し、臨機応変に対応することが求められているからである。今回は、総会の議決遵守と法規の厳守が衝突し、法規の厳守を優先した結果、不可避的に生じた事態である。この判断は、理事に与えられた裁量権の範囲内であり、工事を保留すると判断をしたことによって違法性の問題は生じない。

  3. 東京地裁の判断
     総会は管理組合の最高の意思決定機関であり、総会で選任される理事、ひいては、その理事によって構成する理事会は、総会決議に基づく組合業務を執行することが求められている。
     しかし、理事会が組合業務を執行するに当たり、規約や区分所有法に違反し、区分所有者共同の利益を害する事態が存在するにもかかわらず、総会で議決された事項のすべてを必ず執行しなければならないと解すると、区分所有者の利益を守る目的で、マンションの共用部分の管理等を行う理事会が、かえって規約や区分所有法に違反する行為や、区分所有者共同の利益を害する行為に及ぶことになってしまう。

     以上から、本件修繕工事ついては、総会が実施することを議決したが、理事会は、すべてにおいて執行(実行)が義務付けられたというものではなく、執行(実行)する権限が授与されたものというべきであり、理事会に一定の裁量が認められている。本件で総会の議決に反し、工事を保留したことで工事の執行義務や損害賠償が認められるには、その裁量を逸脱したと認められることが必要である。また、個々の理事に責任が認められるのは、個々の理事が原告の権利を侵害するという積極的意図を持って、理事会の決定を導いたときに限られるが、裁量の逸脱、積極的意図のいずれも認めることはできない、としてAの請求を棄却しました。


Copyright(C)2013 PICT. All rights reserved.