業務知識・判例
判例:ひぼう中傷文書配布等が
「共同の利益に反する行為」に該当する場合とは?

安原・松村・安孫子法律事務所  弁護士 安原 伸人

 マンションの区分所有者が、理事らをひぼう中傷する内容の文書を配布する行為等が、建物の区分所有等に関する法律第6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たると判断された判例
最高裁第三小法廷平成24年1月17日
判例タイムズ1366号99頁

1 事案の概要
 本件は、神奈川県藤沢市所在の区分所有建物(以下「本件マンション」という。)の区分所有者Aが、同じく本件マンションの区分所有者であるBにおいて、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たる行為を繰り返していると主張して、法57条又は本件マンションの管理規約に基づき、他の区分所有者の全員のために、Bに対し、上記行為の差止めを求める事案です。 

 Aは上告理由の中で概要次のように主張しました。「A及びBは、いずれも本件マンションの区分所有者であるところ、Aは、平成21年8月23日、本件マンションの区分所有者の集会の決議により、Bを除く他の区分所有者の全員のために本件訴訟を提起する区分所有者に指定され、同年10月2日、本件訴訟を提起した。Bは、平成19年頃から、本件マンションの管理組合(以下「本件管理組合」という。)の役員が修繕積立金を恣意的に運用したなどの記載がある役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し、本件マンション付近の電柱に貼付するなどの行為を繰り返し、また、本件マンションの防音工事や防水工事を受注した各業者に対し、趣旨不明の文書を送付し、工事の辞退を求める電話をかけるなどして、その業務を妨害するなどの行為(「本件各行為」という。)を続けている。

 Bは、本件管理組合における本件マンションの管理に関する決定内容につき、集会の場で意見を述べることもないまま、正当な理由なくこれを問題視して、本件各行為に及んでいるのであり、本件各行為は、本件管理組合の役員らに対する単なる個人攻撃にとどまらず、それにより、集会で正当に決議された本件マンションの防音工事等の円滑な進行が妨げられ、また、本件管理組合の役員に就任しようとする者がいなくなり、本件管理組合の運営が困難になる事態が招来されるなどしているのであって、本件マンションの管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為であり、これが違法であることも明らかである。」

 原審は、仮に、Bが本件各行為に及んでおり、それによって本件マンションの関係者や本件管理組合の取引先が迷惑を被っているとしても、本件各行為は、騒音、振動、悪臭の発散等のように建物の管理又は使用に関わるものではなく、被害を受けたとする者それぞれが差止請求又は損害賠償請求等の手段を講ずれば足りるのであるから、これが法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たらないことは、Aの主張自体から明らかであり、Aが法57条に規定する他の区分所有者の全員のためにその差止めを請求することはできないと判断してAの請求を棄却すべきものとしました。
2 判決要旨
 最高裁は、次のように判示して、Xの請求のうち法57条に基づく請求についての判断に違法があるとして、原審に差し戻しました。

 「法57条に基づく差止め等の請求については、マンション内部の不正を指摘し是正を求める者の言動を多数の名において封じるなど、少数者の言動の自由を必要以上に制約することにならないよう、その要件を満たしているか否かを判断するに当たって慎重な配慮が必要であることはいうまでもないものの、マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し、マンションの防音工事等を受注した業者の業務を妨害するなどする行為は、それが単なる特定の個人に対するひぼう中傷等の域を超えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地があるというべきである。」

 「これを本件についてみると、Aが、Bによる本件各行為は、本件管理組合の役員らに対する単なる個人攻撃にとどまらず、それにより本件管理組合の業務の遂行や運営に支障が生じているなどと主張していることは、前記のとおりである。それにもかかわらず、Bが本件各行為に及んでいるか、また、それにより本件マンションの正常な管理又は使用が阻害されているかなどの点について審理判断することなく、法57条に基づく本件請求を棄却すべきものとした原審の判断には、 法6条1項の解釈を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。」
3 解説
 本来、ひぼう中傷などの行為は、名誉棄損行為等と主張して被害を受けた者が、個別に損害賠償請求や差し止め請求をすることになるので、原審及び第1審はその原則論をもってXの請求を棄却しました。
 しかし、最高裁は、そのような行為であっても法6条1項所定の「共同の利益に反する行為」に該当することがあることを明示しました。

 具体的には、法57条に基づく差止め等の請求については、マンション内部の不正を指摘し是正を求める者の言動を多数の名において封じるなど、少数者の言動の自由を必要以上に制約することにならないよう、その要件を満たしているか否かを判断するに当たって慎重な配慮が必要であると前置きした上で、当該マンションの区分所有者の行為が単なる特定の個人に対するひぼう中傷等の域を超えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地があるというべきであると判示しています。

 最高裁は判断を原審に差し戻しているので、最高裁が考える「共同の利益に反する行為」の定義は明らかにはなっていませんが、一見すると理事らへの個人攻撃で、それに対して個々の理事らが被害者として差止請求権や損害賠償請求権を行使することが可能な行為であっても、それが単なる特定の個人に対するひぼう中傷等の域を超えて、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、区分所有者の共同の利益を守るために、法57条1項及び3項に基づいてその差止め等を求めて訴訟を提起することができる余地があることが明らかになりました。

 今後、管理組合運営に理不尽な言い分で苦情を繰り返す区分所有者が出た場合には、法57条による差し止めを検討し、場合によっては実際に訴訟を提起しなければならない可能性があります。多種多様な方が混在するマンションにおいて、常軌を逸脱する区分所有者に対する対抗策として参考にしていただければと思いこの判例を紹介することにいたしました。

 なお、法57条に基づく請求権は、個々の区分所有者が単独で有する区分所有権又は共有部分の共有持分権ないし人格権に基づく差止請求権や損害賠償請求権とは別個の権利ですので、共同の利益に反する行為により被害を受けた個々の区分所有者が個別に各請求権を行使することを否定するものではありません。


Copyright(C)2014 PICT. All rights reserved.