業務知識・判例
マンションの『長寿命化』についての考え方
公益財団法人マンション管理センター テクノサポートネットグループ 
九州ビルリフォーム調査機構 (株)松澤建築設計事務所 
代表取締役 松澤 康博 
(一級建築士・福管連技術顧問) 
1.マンションを含めた建築物の社会的役割
 皆さんが住んでいる地域に建てられた建物は、それだけが独立して建っているわけではなく、周辺の緑地や道路・近隣の建物等、地域環境と一体となり、街並みを形成しています。つまり、建物の所有者は地域の負担にならないように、スラム化させないような管理運営を継続していく責務があるのではないでしょうか。
2.建物は社会的な財産
 欧米諸国では、住宅を含め全ての建物は個人的な所有物ではなく「社会的な財産」としての役割と価値があると捉えられています。従って行政は社会的財産価値を支えるために法を定め、施工段階に沿って独立した機関による厳しい現場監査を義務付けており、建物の安全性・環境保全・住人の健康を保持すべき建物を造るための機能を構築しています。我が国でも平成12年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)等、法整備が整いつつあります。
3.「住まい」についての考え方
 日本を含むアジア諸国は農耕民族であり、土地に固執する習性があるのに対し、欧米人は遊牧民族的発想で、居住地を移動することにあまり抵抗がないようです。移動することによる生活の変化の頻度は、5〜10年に一度と言われています。従って建物不動産を取得する購入時には既に売却を念頭に入れながら物件を探し、建物の資産価値が下がらないように充分なメンテナンスをしながら生活し、何度か転居を繰り返し、売却資金を活用し、ゆとりある老後を過ごす人が多いようです。

 このようなライフスタイルは、築後20年程度で資産評価が1/10以下に下がり、土地の価格だけになるのではなく、40年50年経っても充分なメンテナンスを行なっていれば建物の資産価値が下がらないことが条件となります。
4.鉄筋コンクリート造の建物の耐用年数
 マンションの寿命を想定する場合、物理的耐用年数と経済的(相対的)耐用年数が考えられます。

 物理的耐用年数は、躯体コンクリートが中性化のため強度が不足する。コンクリート内部の鉄筋が腐食して鉄筋コンクリートとしての役目を果たせない。設備配管が腐食あるいは破裂して使えない等を言います。これに対し、経済的(相対的)価値の低下による寿命は、地域の環境が変化して住宅地として生活するために安全で快適ではなくなった。建物の機能が住民の高齢化等により陳腐化した。例えば5階建マンションにエレベーターが設置されていない等です。又、外観デザインや動線が時代の波に取り残されていることも経済的(相対的)劣化であり、共に中古マンションの購入者や賃貸入居者が敬遠する物件の原因となり空き家が増えるマンションとなります。
 物理的耐用年数でいえば、コンクリートのかぶり厚は30ミリで中性化し鉄筋に到達するまでは、ひび割れや爆裂が無ければ60年以上、それに塗装やタイル等の仕上材があれば80年以上、定期的に仕上材の塗替えや張替を行う事により100年以上の寿命を保つことが出来ます。

 更に欧米諸国の共同住宅のように外断熱を施すことにより200年以上の寿命を保つ事は可能です。

 経済的(相対的)耐用年数では、その建物の周辺の環境や、建物の居住性・美観・管理運営に魅力が無くなり、居住者がいなくなり廃墟同然となるか、スラム化した時点がその建物の寿命となります。
▲長崎県端島「軍艦島」
5.建物の維持保全の必要性
 日本で建てられた最初の鉄筋コンクリート造集合住宅としては、長崎県端島に炭鉱用住宅として造られた軍艦島が有名です。最盛期には6000人がその中で生活していました。

 最も古い30号棟は、1916年(大正5年)竣工ですから、築後97年ということになります。現在では廃墟になっており立入禁止となっていますが、建物は崩れておらず、現存しています。

 又、世界で最も古い鉄筋コンクリート造集合住宅は、パリに建つ「フランクリン街の集合住宅(1903年)」ですから築後110年の現役であり、状態も良好、パリの美しい
景観の一部を担っています。

 我が国が本格的な鉄筋コンクリート造共同住宅を供給したのは、関東大震災後、耐火建築の必要性と復興支援のために東京・横浜の各地に建設された「同潤会アパート((財)同潤会)」です。その最初の建物である「中之郷アパートメント」(3階建6棟、102戸)は1926年(大正15年)に竣工していますが1990年(築後64年)に建替えられました。
▲「フランクリン街の集合住宅」
 今日残っているのは「上野下アパート」(築後84年)だけで、これも今年6月に取り壊しが始まります。 同時期に建てられたヨーロッパやアメリカの集合住宅の多くが現存していることを考えると『何故?』と考えさせられます。

 地震等で住めなくなってからではなく、古くなったからという理由であり且つ、土地の環境や利便性に魅力があったことも大きな理由だと思われます。青山や代官山が代表的な例です。

 結局、古いものを大切にしない。維持保全を充分に行って来なかったと言うことで、物理的に崩壊した訳ではないのです。
▲上野下アパート
6.建替えの問題
 築30年も過ぎ建物が老朽化してくると、必ず『建替え』の声がしてきます。「古くなったから建て替える。」一見、当然なことのようですが、実は世界的に見たら日本人独特の発想だそうです。古くなったら綺麗に塗り替える。貼り替える。壊れた箇所
を修繕する。新しい部材に取り替える。内装を今の時代にあったようにリノベーションを行いながら建物の寿命がくるまで住み続ける。このような考え方が欧米社会の一般的な考え方だそうです。

 これに加えて古い歴史のあるものに価値観を見出す。新築のマンションと築100年のマンションの価格がかわらないということも納得がいきます。考えてみますと、我が国でもものを大切にする・修理しながら長く使うという歴史は古くからある訳で、法隆寺を初め、日本の古くからの寺社仏閣等は何度も修理を重ねながら数百年の歴史を刻んで今日があり、又、そのシステムも構築されています。

 「使い捨て」「消費型社会」というのは、戦後わずか50〜60年の間に身についてしまった習性であり、とにかく住宅の数が足りない・プレハブでも狭小住宅であれ必要だという時代は、バブルと共に去った訳で、今後は社会資産となり得るサスティナブルな建物を維持保全しながら長く使っていくという事が必要になると思います。

 現在のマンションで建替えが必要なマンションもかなりあると思われます(例えば、築30年以上でエレベーター無しの5階建マンションに代表される機能的に社会生活を維持することが難しい建物)。都市再生に建物の建替えは重要なことです。建物というのは、いずれ建替えか廃墟になるか更地になるかです。建替えが成功するには、その土地の地域環境と利便性に充分魅力があり、且つ、資金計画が成り立つ事が絶対条件であり、建替えニーズが社会的にあるということも重要なことです。現実の話となると、この条件に当てはまるマンションは限られており、合意形成や実施計画が難しいというのも事実ですから、建替えの選択が出来るマンションは非常に幸せと言えるのではないでしょうか。
7.マンション再生
 マンションの建替えが簡単には出来ないということであれば、築後40〜50年程度で廃墟やスラムにしない為の計画に基づいた維持保全が必要になります。その時に大切な事は、少なくともその時代の社会的ニーズに合った改良・改善を行うことです。それが本来の『マンション再生』であり、住民の生活向上であり、又、資産価値の向上になるからです。そして、このような維持のスタイルが『次世代ストック型社会』のあり方と思います。

 例えば、30年以上も前の設計思想や設備も含めた技術水準を変えることなく単なる初期性能への原状回復だけの修繕で改修と言えるのでしょうか?最近の新築マンションの持つ安全性・耐震性・バリアフリー・省エネ・エコ・防災・セキュリティ・デザインの一新等を改修項目に入れる事は必要条件なのでしょうか?必要となれば資金計画はどうすれば良いのでしょうか?ここに現実という大きな壁がどのマンションにも立ちふさがります。

 しかし、これらの事を一度にやろうとすると無理があります。考えてみると、人気のある新築マンションもいずれ機能的にも劣化し、多額の維持費がかかる事になります。マンション再生を考える時、早急に事を進めるのではなく、次世代に引き継ぐ事
のできるマンションを住民全員で時間をかけて造り上げていく事が重要になると思います。
8.マンション生活のメリット
 マンションには戸建に比べて共同で住まうスケールメリットがあります。戸建ではなかなか難しい都心部や都心部に近い利便性の良い場所に住むことが出来ます。更に、相対的に地震や火災にも強く、セキュリティの面でも安全性を提供してくれます。そして、最大のメリットは「ともに暮す」という事だと思います。反面、共同で暮らすとトラブルが絶えないという人もいます。戸建に住んでいる人で、自分もある程度の年齢になったらマンションに住み替えたいが協調性が無いので無理かもしれないと言う知人が居ますが、ある意味正解かもしれません。

 日本のマンションは当初、デベロッパーから「鍵1本で近所付き合いの煩わしさもありませんよ」という謳い文句に乗せられていた時代もあったように「共同性」を否定した所からスタートしたようです。「都会生活」「マンション生活」という言葉の響きには、まだどこか渇いた影のようなものが感じられます。つまり、最大のメリットを活かしていないと思います。
9.マンション再生はコミュニティの再生
 本当のマンション再生とは建物の再生だけでは充分ではなく、コミュニティの再生も重要なのかもしれません。赤ちゃんからお年寄りまで世代の違う人々が共同生活を営む中で、互いにいたわり合い・助け合いながら日々暮らしてゆけるマンション。次の世代・その次の世代が居る事が本当の意味での共同体であり、多少建物が古くても、不便な事があっても、人々は幸せにくらしてゆけるのかもしれません。

 今の30代・40代の人は、日本の未来に対し不安感と不信感があるようです。その根底にあるのは、低所得と夢が無いことのように思います。若い世代の人たち全員が新しくて高級感のあるマンションを選択する訳ではないのです。又、60代以上の世代にも将来に不安を感じる人は増えていると思います。つまり、今住んでいるマンションを安心して暮らして行けるコミュニティを形成し、増え続ける空き家マンションを防止する為にも、このような世代の人々を積極的に迎え入れる体制を造ることも新しいマンション再生の一つの方法だと思います。
10.終わりに
・中古住宅の流通
 日本の住宅評価は土地価格のみが重視され、建物部分の評価はほとんど考慮されていません。最近の建物のグレードも以前より上がってきている事もあり、既存住宅市場において、マイホーム取得が新築一辺倒から、中古住宅へもう少し目を向けるべきと思います。今の市場は、中古住宅流通機能がまだ充分とはいえませんが、今後建物の評価基準機関の設置、価格の適正等の法整備が確立される事が望まれます。

・マンションの長寿命化とは
 100年・200年もつ建物ではなく、もたせるという意識が重要で、そのためには計画的な維持保全システムと、建物履歴システムの構築が必要です。

・マンションの法整備
 マンションの長寿命化の為には、基本的維持保全の他に、改築・増築・減築等も必要になる時期が来ます。又、建物の経年に伴って共用部分の一部を専有部分化したり、専有部分の一部を共用部分化する必要性が生じるかもしれません。しかし、現行の区分所有法では4分の3以上の特別決議だけでは無理があります。要するに、建物を積極的に改良して、より良い生活環境を造り上げていくという仕組みが無く、結局現行法の下では建替えという選択肢を取ることになります。しかし、前に申した通り現実には費用負担等の問題で建替え決議(5分の4以上)成立もかなり困難であると思います。
追記
 以上、マンションの「長寿命化」についての私なりの考え方を述べて来ましたが、生活スタイルは今後益々多様性を帯びると思われます。それぞれのマンション独自の新しい「マンション生活スタイル」の確立を目指すことも大切なことと思います。

 尚、長寿命化のための技術的な事は福管連発行の『マンション改修工事の手引き』『マンション長寿命化グレードアップ再生マニュアル』を参考にして下さい。


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