業務知識・判例
マンションの当面する課題と取組み
NPO法人 福岡マンション管理組合連合会 理事長 杉本 典夫
1 大部分のマンションは建替えができない
 国土交通省の資料によると、全国の分譲マンションストック数は平成23年末で579万戸。そのうち、建替えの可能性がある築40年を超えるマンションは2万3千戸。

 一方、実際に建替えが完了したマンションは、平成23年10月末現在で281件、建替え実施中と検討中は、双方合わせて27件と微々たるものである。そうして、10年後には、築40年超のマンションが118万戸に急増。しかし、今のまま推移すると、築40年はおろか、築50年となる2万3千戸のマンションにおいても、建替え実施は1割もない−と見るのが現実ではないだろうか。

 そのような状況下で管理組合は、建物の老朽化にどのように対処すべきか。

 本当は、建物が老朽化した時点で、水漏れが発生した、外壁のタイルが落下した、修理したいが積立金が無いと騒いでも手遅れである。分譲当初の低い「修繕積立金の設定」の現状から改めていかなければならない。管理組合としては、今からでも、長期修繕計画に沿った資金の確保・確認・見直しといった基本からからからスタートすべきである。
2 居住者の高齢化が進む
 国土交通省の「平成20年度マンション総合調査」によると、世帯主の年齢は、前回調査の平成15年度に比べ、「60歳代」以上の割合が31.7%から7.7%増加して39.4%、「40歳代」以下は40.2%から4.6%へ減少して35.6%と低下している。世帯主の統計であるが、マンション居住者全体をみても、ほぼ同様の傾向であろう。

 居住者の高齢化が進むと、役員のなり手がいない、修繕積立金の値上げができないなどの問題にぶつかるが、根本的な原因は、コミュニケーションの不足といった別の原因があることも多い。高齢者といっても、健康で社会的にしっかりと活躍できる方が多数派である。
3 認知症高齢者300万人の時代
 厚生労働省は、平成24年8月24日「認知症の高齢者が平成24年推計で305万人、平成14年の149万人から10年間で倍増している。」と発表した。これを「認知症高齢者300万人の時代」と表現したマスコミもあった。

 国も財政難の状況にあり、認知症であるからといって、今までの医療機関や介護施設への入院・入所の方向から在宅治療へ転換している。マンションでは、お互いが近接した距離に居住しているので、認知症高齢者の増加を個人の問題として組合活動から切り離すわけにはいかない。管理組合としては、居住者の認知症への偏見があれば、正しく理解していただくことから始めてはいかがであろうか。

 認知症であっても、適切なサポートをすれば、多くは自宅で穏やかに暮らすことができることを居住者へ啓発していただきたい。(認知症関連記事は、マンションライフ福岡2007年春季号、同夏季号、2009年夏季号、2011年夏季号、2012年春季号、同夏季号に掲載している。とくに、2011年夏季号で紹介した「認知症と長寿社会−笑顔のままで−」(信濃毎日新聞取材班著)は、実例も豊富で、認知症に対する価値観を転換させた力作とし高く評価され、新聞協会賞も受賞している。ぜひ一読をお勧めする。)
4 改正暴力団対策法施行
 平成24年10月30日から 改正暴力団対策法が施行された。この改正は、福岡、北九州の暴力団の動きを牽制するために行われたともいわれている。福岡県知事、福岡市長、北九州市長も、国会や各行政機関に立法化を働き掛けられたことがマスコミに報道された。

 民間事業者への襲撃や対立抗争を繰り返す暴力団を公安委員会が特定暴力団に指定して規制を強化している。管理組合にとって関心が高い「暴力団追放運動推進センター」が住民に代わって組事務所の使用差止訴訟の原告となることができる部分は平成25年1月30日から施行される。

 このように法制度は改正されたが、改正の効果を上げるためには、市民の協力が大切であり、また、警察のきめ細かな住民等の保護対策も望まれる。管理組合にとっては、組合員がマンションを暴力団に貸さない、売らないことを遵守してもらうことか大切であり、そのためには、福管連モデル規約(福岡マンション問題研究会弁護士監修)の暴力団排除条項を参考にして、管理規約を改正していただきたい。
5 被災マンションの取壊しは特別決議で可能に
 現行法では区分所有者全員の同意がなければマンションの取り壊しはできない。被災マンションであっても同様である。このために、東日本大震災で、全壊、大規模半壊になったマンションの建て替えが遅れているという。

 この対策として、法務大臣の諮問機関である法制審議会の被災関連借地借家・建物区分所有法制部会(部会長:神戸大学・山田誠一教授)は、被災マンション法に、被災マンションの取り壊しや土地の売却を含む中間を取りまとめ、パブリックコメント(意見公募)を平成24年12月4日まで実施。平成25年2月に法務大臣へ答申。これを受けて法務省は、被災マンション法の改正案を通常国会に提出する予定となっている。成立は間違いないであろう。

 中間取りまとめ案では、大規模な災害によって重大な被害を受けたマンションなどについて、建物が2分の1超の大規模な被害を受けた場合は、区分所有者数と議決権のいずれも5分の4以上の同意があれば解体を認める。また、建物解体後の敷地利用についても、持ち分価格で5分の4以上の敷地共有者の同意で、売却か再建かを選択できる。今後の発生が予想されている首都直下地震や南海トラフ巨大地震に備える目的もあるといわれている。

 今回は、被災マンション対策として法改正がなされるが、区分所有者や学者の間からは、老朽化した一般のマンションも多数決による建物の解体と敷地の売却ができる制度を設けてほしいとの要望がある。民法では、建物や敷地の処分は共有者の全員の賛同が必要であり、取壊しは簡単ではない。このままでは、アメリカのように、立ち枯れしたマンションが発生し、崩壊の危険性もあると心配されている。
6 金沢市でエレベーター死亡事故  シンドラー社製エレベーター
 平成24年10月31日午後、金沢市広岡1丁目のアパホテルで女性従業員が、業務用エレベーターの「かご」と天井の間に挟まれ、死亡した。国土交通省の発表では、女性が4階から人荷用エレベーターに乗り込もうとしたところ、戸が開いている状態でかごが上昇し、エレベーターのかごと三方枠に体を挟まれ、心肺停止の状態で病院に搬送され、その後死亡が確認された。
警察では業務上過失致死の可能性もあると見て、安全管理に手落ちが無かったかどうか調べている。国土交通省もただちに職員を派遣し、現地調査を行うとともに、シンドラー社製の全エレベーターを点検するように指示した。

 シンドラー社製エレベーターは、平成18年にも東京・竹芝で高校生(当時16歳)が挟まれて死亡する事故が発生している。この死亡事故は、国土交通省などの調査結果、エレベーターのブレーキ部分の磨耗によって引き起こされた。これを受けて国土交通省は建築基準法を改正し、平成21年以降に設置するエレベーターには、通常ブレーキのほか、扉が開いたままカゴが上昇・下降することを防ぐ補助ブレーキの設置を建物所有者に義務付けた。

 しかし、今回の事故機が設置されたのは平成10年で、磨耗を検知するセンサーは付けたものの、「二重の安全装置」に当たる補助ブレーキは設置していなかったとのことである。
国交省は平成12年度の事業として補助ブレーキを付ける際の助成制度を設けたが、『既存不適格』という位置づけであり、ただちに改修をしなければならないとの扱いではない。

 しかし、人命にも関わるものであり、自分のマンショのエレベーターは『既存不適格』かどうか点検し、不適格であれば、予算を確保し改修を計画してほしい。また、国土交通省では、平成24年4月2日に「昇降機の適切な維持管理に関する指針」(案)を公表した。その中に、「保守点検契約に盛り込むべき事項のチェックリスト」が含まれている。保守会社がきちんと保守点検を実施しているか、チェックの必要がある。
(建築保全業務共通仕様書はhttp://www.mlit.go.jp/gobuild/kijun_hozen_shiyousho.htm参照)


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