業務知識・判例
「マンション長寿命化のための大規模修繕工事5つのポイント」
一般社団法人マンションリフォーム技術協会長一級建築士   田邊邦男
1 大規模修繕工事の進め方
 マンションの大規模修繕工事の周期は、「建物の仕組み」によって異なるが、おおむね10〜15年である。近年は材料・工法の進化により延伸する傾向にある。大規模修繕工事を12年周期で行うと築後60年間に4回大規模修繕工事を行うことになるが、各ステージごとの工事のポイントは次のとおりである。

(1) 第1回目の大規模修繕工事
 外壁改修を主体とした工事で、関連工事も同時に施工する。構造躯体、仕上げ材の経年劣化と傷み、これらを直していく。「みすぼらしくなった建物を新築時の姿に戻そう」がコンセプトである。

(2) 第2回目の大規模修繕工事
 2回目になっても、1回目の大規模修繕工事で行った躯体改修工事、仕上げ材の塗り替え、タイル劣化部分の浮きの補修等は変わることはない。それ以外に、「新しい部材やパーツ」での改良工事を行う。設備工事も増えてくる。
(3) 第3回目の大規模修繕工事
 第3回目は、36年を経過しており、建物を構成するすべての部材の修繕周期がおおむね一巡する。大規模修繕工事は外壁だけでなく、様々な工事の周期がある。例えば、塗装、窓回り、外壁の目地のシーリング材もあるので、それらの劣化状況に合わ
せて、修繕時期を決める。これは長期修繕計画の考え方の基本となるものである。 
   
(4) 第4回目の大規模修繕工事
 第4回目の大規模修繕工事は「他の新築マンションと同じレベルまでのクレードアップ」が目標である。4回目の大規模修繕になると、長期修繕計画で設定している色々な部材の修繕周期が関係してくる。例えば、鉄部は、大体5年から6年目に塗り替える。ところがアルミサッシの取替えは早いところで30年くらい、遅いところでは、資金計画も絡んできて45年目になってもまだ当初のままだという状況も出てくる。

 計画上は何年目といった目安を作るが、これは資金計画の関連もあり実施できるかどうか。しかし、後年になればなるほど居住者の高齢化と同時に、建物の傷みもだんだん進んでくる。この辺の問題点は、大体、築20年を過ぎたころから検討し整理していく必要がある。
2 共用部分等のグレードアップ
  1. 共用部分のグレードアップは、建物全体の機能・性能の向上、高齢化に対してのバリアフリー対応、エントランス周り、玄関ホールの改修、エレベーターの更新、給排水設備の配管の更新、電気幹線の引き替え、耐震改修、屋外環境の整備等様々な工事が出てくるので、それに対応した資金計画が重要である。
  2. 玄関扉の更新では、防犯性、耐震性、断熱性の向上を図る。
  3. 窓サッシは、既存の窓枠を残し、新たに枠を被せるカバー工法が主流である。ガラスをペアガラスに替えて断熱、防犯、防音等の向上を図る。既存のサッシの内側に新たに窓サッシを設ける二重サッシ工法も断熱、防音効果が大きい。
  4. バルコニーの手すりは、鉄部塗装を6年に1回行うと、12年目ごとの大規模修繕時では足場が掛かっているから良いが、そうでないときは足場を架けるのには大変な費用が掛かる。足場を架けなければ部屋の中を通っていかなければならない、そういう煩わしさを避けるためには、早い時期にアルミに取り替えておいた方が良いとして、一斉にアルミ製に替えたマンションもある。
3 専有部分のグレードアップ
 設備関係は、共用部分だけ工事して、専有部分を後回しするのでは、効果が半減する。共用部分・専有部分を同時に行うことが経済的にも望まれる。
4 エレベーターの設置
 首都圏で問題になっているは、エレペーターのない5階建てのマンションである。エレベーターの設置(更新)は、費用さえあれば技術的には可能であるが、低層階の居住者と4〜5階の居住者との合意形成が難しい。エレベーター改修費用とランニングコストの電気代など、維持管理費にかなりの経費が必要となる。公団や公営住宅ではいち早く階段室ごとにエレベーターをつけているが、分譲マンションとなるとなかなか合意形成が困難な状況にある。
5 給排水設備
 今の配管は、いわゆる鋼管であっても、水に触れないように防食継手が使われているから、劣化は昔に比べるとかなり遅くなってきている。建物は造られた年代によって、使われているものが違うので、給水管の更新周期が何年かと聞かれ、一律に何年ということはできない。近年は地中埋設管にはポリエチレン管が使われており、また、屋内給水管等は、新しい材料としてはポリブデン管等が使われている。これらは樹脂管であるから、錆びるという現象は起きない。

 ポリエチレン管の継手は、今までの鋼管と異なり溶着なので非常に耐用年数も長いし、地震に対しても柔軟性がある。このような新しい材料のものに配管を取り替えて行く。鋼管であっても、防食継手が使われているものについては、かなり延命が図れ
るが、新しい材料に替えて行くことによって、次に替える時期は、外壁工事のような十数年に1回という必要はなくなってくる。
6 パートナー選び
 パートナーとは、管理組合が大規模修繕工事を進めていく上での全般的協力者をいう。パートナー選びは、大規模修繕工事の準備段階では最も重要な事項で、これにより工事の成否が決まるものといえる。
(1)  大規模改修工事の進め方
 大規模改修工事の進め方として、設計施工方式と設計監理方式がある。設計施工方式は、工事の設計から施工までを施工業者が行う方式である。設計監理方式では、調査診断から監理業務までを建築の設計事務所やコンサルタントつまり設計監理者が行う。

 設計監理者は、業務の処理や進め方を公明正大に行い、管理組合執行部が「説明責任」を充分に果たせるようにサポートする。そうして、建物の工事に関するハード面だけではなくて、組合運営に関するソフト面についても適切なアドバイスを行う。さらに長命化を基本とした長期的視野に立ったアドバイスができることも必要となってきている。
(2) 設計事務所の絞り込み
設計事務所を選ぶときは、数社の候補の経歴や実績を調べ、質問事項に回答してもらい、数社に絞ってヒァリングいわゆる面接をして、最後に一社を決める。このようなプロセスを経て、きちんと決めていくことが大切である。

(3) 設計事務所の費用
 コンサルタントに業務を依頼する場合の費用であるが、数年前の首都圏での建築士事務所協会の調査では、50戸以下〜60戸位で250万円から300万円ぐらい。首都圏では大体これくらいの金額が一般的な費用。あまり安いところは危険といわれる。設計事務所は、工事の内容、範囲、仕様を決めるだけではなく、技術レベルの高い内容の仕様でキチンと施工会社に工事をしてもらわなければならない。このような作業を行うためには、一定の設計・工事監理報酬が必要になってくる。

(4) 設計施工方式
 設計施工方式で、複数の施工会社に競争見積もりをさせる場合には、そのための、一定の基準が必要となる。基準を決めないと、管理組合が見積もりだけとって、単に比較しても、見積の金額に差がありすぎて判断ができない。安かろう悪かろうに最も注意が必要であるが、その判断をどう行なうかの難しさがある。
7 資金計画とその課題
 修繕積立金について、近年、国交省のガイドラインが出ている。ガイドラインがそのまま使えるというものでもないが、ある程度評価できる。

 数年前に、ある研究組織で10階建て、60戸、専有面積80?のマンションの60年間の修繕に要する費用をシミュレーションしたことがある。これによると、1戸月額19,600円となる。国交省の積立金のガイドラインでも、巾はあるが平均して19,000円くらいであり、ほぼ近い数字である。しかし、現実にはかなり高額であり、実現は簡単にはいかない。一方で、建て替えもかなり困難である。これからは、マンションの長命化を図るための資金計画を立て、早い時期より必要資金を準備していくことが管理組合の大きな課題となっている。


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