マンションにいつまでも
住むために




愛知産業大学教授
工学博士 藤 木 良 明

1.メンテナンスをしてこなかった築50年の団地型マンション


 初めに、新築から50年の間、メンテナンスらしいことをほとんどしてこなかった団地型マンションの写真をみていただきます。

 メンテナンスをしてこなかったのは、おそらく管理組合が弱体であったのと、平成の初めころから建替え計画が持ち上がり、修繕をすると建替えが遠のくということで積極的な修繕をしてこなかったのではないかと思います。

 いずれにしろ、この写真は建物のメンテナンスをしないで放っておくとどんな状態になるかをよく教えてくれます。

2.建物の耐用年数とは


 では、建物の耐用年数とは何なのかをいくつかの側面から考えてみようと思います。

  1. 物理的耐用年数

     マンションは、定期的なメンテナンスをすれば物理的には100年は十分にもちます。20年代半ばをすぎると心配になってくる給排水管の保全もそんなに大変なことではありません。

  2. 経済的耐用年数

     物理的耐用年数がこなくても、マンションの立地条件に経済的な変換が起こったときには、築年代に関係なく、建替えを選択することになります。自己負担なしでおこなう等価交換方式による建替えがこの例で、平成14年の区分所有法の建替え条項の緩和以来、大阪の千里ニュータウンや東京でいくつか実現しています。

     初めにお見せしました団地型マンションも、最近、等価交換方式による建替えの合意が成立し、近々取り壊されます。

  3. 法定耐用年数

     マンションを賃貸して収益をあげる場合、減価償却の期間が生じます。この期間を法定耐用年数といい財務省令に定められています。鉄筋コンクリート造のマンションの場合、以前は60年でしたが、現在は47年に変わりました。

     住宅の滅却率がどんどん早くなり、鉄筋コンクリートの建物でも30数年で建替えられるような社会情勢が背景にあり、社会の動きによって法定耐用年数も変わってきたのです。

 現在、わが国には約500万戸のマンションがあり、それに毎年10数万戸が新たに加わります。

 日本の住宅総数は約5,400万戸、一方、世帯数は4,700万くらいですから、住宅の方が世帯数より15パーセントほど上回っています。つまり住宅あまり時代なのです。

 住宅の方が世帯数を上回っている状況で、市場経済はどこまで住宅を建てつづけていくのでしょうか。この地球環境時代にあって、私たちの大方のマンションは、建物を長持ちさせて次の代に受け継がれていく努力をすることこそが重要ではないでしょうか。

 そんな価値観をマンションに住まう側から創っていかなければなりません。


3.マンションはどのように劣化していくのか


 マンションを次の代まで長持ちさせるためには、マンションがどのように劣化していくのかを知っておく必要があります。

 一般のマンションは鉄筋コンクリート造ですが、鉄筋コンクリートにはひびわれと、コンクリートの中性化に伴う内部鉄筋の発錆という二つの大きな劣化現象が生じます。

  1. コンクリートのひびわれ

     コンクリートの乾燥収縮によるひびわれは、新築時から2〜3年のうちに発生します。いったんクチを開いたひびわれは経年するにしたがって次第に成長していきます。

     建物の温度は冬には零下、夏の屋上は60数度まで上がります。一年のうちでも、一日のうちでも、建物の温度は上がったり下がったりしてぐるぐる変化しています。この温度変化に伴って、ひびわれが成長していくのです。

     ひびわれが発生すると、そこからコンクリートの内部に水が入りますし、二酸化炭素がひびわれからコンクリートの内部に入り込み、もう一つの劣化現象であるコンクリートの中性化を招きます。

     このように考えると、新築して間もない時期に生じたコンクリートの乾燥収縮によるひびわれは、築10数年時におこなう第1回目の外壁修繕の時にしっかりと直しておかなければならないということになります。ここで、しっかりした工事をするか、しないかがその後の劣化進行に大きな影響を与えるのです。

     コンクリートの中性化現象についても同じで、中性化の進行を抑制させる配慮が重要ですし、高圧水洗浄などを用いて、現在はまだ顔を出していない錆びた鉄筋の部分を顕わにして直すことも大切です。

     つまり、第1回目の工事でしっかり直せば、第2回目にはひびわれとか、鉄筋露出とかの補修は極めて少なくなります。

  2. バルコニー、共用廊下、外部階段などへの備え

     新築マンションの共用廊下の床に4〜5年前から塩ビシートを張るようになりました。これは防水性能を高めるというより、美装上の観点から採用されているように思われます。

     しかし、結果としては防水性能が高まり、以前に比べると共用廊下の天井の劣化がずいぶん少なくなりました。その一方、バルコニーや外部階段の床は現在も防水されていないのが一般的な仕様だと思います。

     しかし、コンクリートの水分量を抑えるために防水をする必要があります。第1回目の大規模修繕工事の時に、バルコニーや外部階段の天井に漏水跡が見られなくても、ウレタン樹脂や塩ビシートで防水処理をするのが好ましいと考えて下さい。

     なお、共用廊下に塩ビシートが敷かれていても、排水溝の防水処理が十分ではない例を見かけますので、排水溝をきっちり防水することも忘れてはなりません。

     第1回目の改修でいかにきちんと防水をするかで、天井面の劣化状態が格段に違ってきます。

  3. 屋上防水層の劣化

     分譲会社や管理会社から提供される長期修繕計画では、屋上防水は10年で改修する設定になっている例が多く、10年を過ぎると管理会社から「長期修繕計画に載っているし、保証期間が切れているので改修工事をした方が良い」と勧められたという事例をよく聞きます。

     屋上防水を10年でやり変えなければならなくなることはめったにありません。アスファルトの露出防水であっても、20数年持つものもあります。部分的に膨れが生じたりしている状態でも、切開して押さえつけて、上から増し張り補強をすればよいのです。

     アスファルトは紫外線に非常に強く、劣化に抵抗力があるので、安易に管理会社などの間違った勧告に載せられることのないように十分な注意が必要です。

  4. 仕様の変更、環境改善など

     例えば現在の消防法では、バルコニーの垂直避難口は鋼製のものは使ってはならないことになっています。しかし、古いマンションでは鋼製が一般でした。そのようなマンションでは避難口が錆びて、万一のときに開けようとしても開けることが出来ない状態になっている場合が少なからずあります。

     バルコニーは共用部分ですが、管理組合の管理が十分に行き届かないことが多く、大規模修繕工事のときにステンレス製に取替えてしまわないといけません。

     また、バリアフリーの考え方が新築の設計に取り入れられたのはこの10年くらいのことですから、忍び寄る居住者の高齢化に備えて共用玄関前などの段差解消も必要です。時代、時代の考え方で、その時は気付かなかった分譲時の仕様を、自分たちで積極的に替えていかなくてはならないということです。

     その他、点蝕したアルミの住戸名札、階数表示板などの交換も検討したいところです。

4.給排水管設備の劣化と保全


  1. 給水管の劣化現象

     次に、給排水の問題に触れたいと思います。給水管は、時代によって使われている材料が違います。30年位前の建物だと、亜鉛引き鋼管が主流でした。それから鋼管の中に塩ビをランニングしたライニング鋼管になります。

     このライニング鋼管も、昭和55〜56年位までの仕様では、継ぎ手の部分に防錆処理がしてなくて、そこに大きな錆コブができるのです。昭和57年位からはコア継ぎ手といわれる比較的防錆性能が高いものが使われるようになっています。このように使用されている管材によって、劣化の具合にずいぶん差があります。

     また、給水管は内部から錆びるだけでなく、外部からも錆びます。共用竪管は建物の北側に配管されていることが多く、外面結露を起こして管に穴が開くほど外部から錆びることもあるのです。したがって、第1回目の外壁を中心とした修繕が一段落した15年から20年くらいのところで、給水管に対するきちんとした調査をすることが、次の維持保全上の課題になります。

  2. 給水設備の保全

     毎日使っている水が、市の上水からどのように自宅の蛇口まで流れてくるのかを分かっておられない方が意外に多くいます。そこで、自分のマンションの給水方式を知ることが重要です。

    <受水槽、高置水槽方式>
     この方式は、受水槽に水を貯めて、それをポンプで屋上の高置水槽まであげ、高置水槽からの落下圧で各住戸に水を供給する方法です。

    <加圧給水式>
     この方式は、まず受水槽に水を貯めて、ポンプで水に加圧して、各戸に供給するという方法です。

     築30年くらい経った古いマンションでは、地下の基礎部分が受水槽になっていることがあります。基礎部分にひびわれが生じ、湧き水が入ったり、汚水が流れ込んだりすることが起こります。そのうえマンホールもきちんと管理されていない場合もあり、衛生上好ましくありません。

     そこで、簡易水道法は受水槽の上下左右どこからも点検できる「六面点検」を義務づけるようになりました。したがって基礎部分を利用した受水槽を使用している古いマンションでは受水槽の改善方法を検討しなければなりませんし、六面点検ができる受水槽の場合にもFRPパネルを留めているボルトに錆はないか、漏水はないか、点検蓋がしっかり閉まっているかなどの点検が必要です。

     いずにしろ、築20年代になると給水管の劣化だけではなく、給水装置の見直しの必要性に迫られます。そこで以前には、第2回目の大規模修繕が終わってから給・排水管については考えようということが多かったのですが、ここ4〜5年は、2回目の大規模修繕の時に給水についても併せて検討しようというマンションが目立ってきました。

     このような方向に変わってきたのは、増圧直結給水方式の普及が大きなきっかけになっています。受水槽や高置水槽を必要としない増圧直結給水方式が開発されたことにより、揚水ポンプや加圧ポンプの交換、水槽の交換に併せて新しい給水方法に切り替えるマンションが目立ってきました。それともう一つは居住者の高齢化問題です。

     築30年を越えると居住者の高齢化にともなって病気がちな老人世帯も増えてきます。そうなると、仮に漏水事故が起きた場合、居住者は十分に対応しきれませんし、管理組合が対応するのも容易ではありません。さらには、30年代に入ると専有部分を積極的に模様替えする住戸も増え、管理組合が専有部分に介入するのはますます困難になります。

     そこで、20年代のまだ元気な内に、専有部分の給水管を共用部分に準じて一斉に交換してしまおうという傾向が起きてきたのです。最新の材料を使って、建物が存続する限り水に関しては心配ないように、築20年そこそこで専用部分と共用部分の給・排水管の取替えを一度にやってしまったというマンションもあります。

5.経年マンションの地震対策


 最後に地震のことに触れさせていただきます。

  1. 地震と建築基準法施行令の改正

     1968年の十勝沖地震をきっかけとして1971年に建築基準法の施行令がかわり、次に1978年の宮城県沖地震の被害を受けて1981年に現在の新耐震設計法が導入されました。

     このことから地震に対する耐力という観点から見ると、建物は1970年以前、1971年から1980年の間、1981年以降の三つの世代に分けられます。つまり、建てられた世代によって地震に対する耐力に違いがあるのです。

  2. 兵庫県南部地震、福岡県西方沖地震による被害状況

     下のグラフは、阪神淡路大震災でのマンションの被害状況を(株)東京カンテイが調査した結果を私が許可を得てグラフにしたものです。

     1970年以前の第1世代のマンションは大破が8.5%、それに対して1981年以降の第3世代は0.3%と極端に少なくなっていることが分かります。その一方、このグラフは隠れた数値として、木造住宅に比べるとマンションは非常に安全な建物だということも教えています。

     阪神淡路大震災のときに6,434名の方が亡くなっていますが、マンションでの死傷者は20名前後といわれています。それほどマンションは安全なのですから、危ないところを事前に補強しておけばもっと安全な建物になるのです。

     ところが、マンションの耐震補強は一向に進まないという現実があります。国や自治体が進めている耐震補強支援政策は大変形式的なもので、マンションの居住実態を汲んだものにはなっていないのです。

     それならば、予備診断、一次診断、2次診断、3次診断を経て本格的な耐震工事にかかるという形式的な方法とは別に、兵庫県南部地震や、福岡県西方沖地震による被災経験から、自分のマンションの弱いところ、脆いところを知って、まずそこを補強するという考え方があってよいのです。

     福岡県西方沖地震では新耐震設計法によった建物の方がドアの破損や閉じ込めが多かったと聞いていますが、被災経験を生かして耐震ドアに交換するなどの検討も必要です。

     いずれにしろ、マンションの維持管理は、決して形式にとらわれたり、管理会社やメンテナンス業者の言いなりになったりしておこなうものではなく、自分たちの足元のところからしっかりと組み立てていくものであることを強く自覚していただきたいと期待して、私の話を終わらせていただきます。

     ご清聴ありがとうございました。

▼マンションの世代別被害グラフ



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