欠陥マンションの設計監理者・施工業者にも賠償責任
不法行為の範囲を大幅に拡大した最高裁判決

設計事務所・施工業者にとって厳しい警鐘!

 最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は平成19年7月9日、欠陥マンションの責任問題で争われていた別府マンション事件について、福岡高裁の「設計監理者、施工業者は直接契約関係にない建物購入者に対しては賠償責任を負わない」とした判決を破棄し、「基本的な安全性を欠く建物の設計監理者や施工業者は不法行為責任がある」として、事件を福岡高裁に差し戻しました。

 この判決は、新聞にニュースとして報道されただけで、今のところ、法律専門家による解説は出ていませんが、欠陥住宅の判例を消費者側へ大きく進めた画期的な判決と考えられますので少し詳しく紹介します。


大分地裁へ提訴の経緯

 問題のマンションは、別府市にあり、鉄筋コンクリート9階建て(A棟)と3階建て(B棟)のマンションで平成2年2月に完成したものです。

 このマンション2棟を同年5月に購入したXさんは、建物に多数のひび割れや鉄筋露出、構造上の瑕疵、バルコニー手すりのぐらつき、排水管の亀裂等が生じたので、平成8年に設計監理者に対しては不法行為責任、施工業者に対しては瑕疵担保責任と不法行為責任を求めて、総額6億4000万円の損害賠償請求訴訟を大分地裁に起こしました。

 提訴から6年10ヶ月後の平成15年2月に大分地裁は、設計監理者と施工業者に瑕疵補修に要する費用や調査費用、慰謝料、弁護士費用合計7千4百万円の支払を命じる判決を言い渡しました。

福岡高裁では請求を認められず棄却

 事件は控訴され、舞台は福岡高裁に移りました。福岡高裁は、控訴後1年10ヶ月後の平成16年12月に判決を言い渡しましたが、内容は瑕疵補修に要する費用700万円を認めただけで、実質、Xさんの敗訴といっていいものでした。

 Xさんは出来上がった建物の購入者であり、請負契約上の発注者ではないので、瑕疵担保責任は認められない、また、不法行為責任は、瑕疵の内容が反社会性、反倫理性を帯びる場合や建物の存在が社会的に危険な状態である場合に限って認められるものであり、今回のひび割れ等の瑕疵は構造耐力上危険な状態とは認められないとして、原判決は取り消されました。

 福岡高裁の判決は、不法行為が成立する範囲を建物の基礎や躯体等主要構造部に限定し、それが危険な状態でなければならないとしたうえに、購入者は契約の当事者ではないので原告としての資格がないと不法行為の範囲を非常に狭く解釈したものでした。

最高裁で逆転判決 不法行為の成立範囲を拡大

 当然、原告側はこれを不満として最高裁に上告しました。最高裁では平成19年7月9日、福岡高裁の判決を破棄して、つぎのような逆転判決を言い渡しました。

  1. 建物は、そこに居住する者、そこで働く者、そこを訪問する者等さまざまな者によって利用されるとともに、当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから、建物は、これらの建物利用者や隣人、通行人等の生命、身体または財産を危機にさらすことがないような安全性を備えていなければならない。

  2. 建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者は、建物の建築に当り、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的安全性が欠けることがないよう配慮すべき注意義務を負い、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に、建物としての基本的安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体または財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負う。

  3. 福岡高裁では、瑕疵ある建物の建築に携わった設計・施工者等に不法行為責任が成立するためには違法性が強度であることが必要であるとしているが、例えば、主要構造部でないバルコニーの手すりの瑕疵であっても、これにより居住者等が通常の使用をしている際に転落するという瑕疵があれば、その建物には基本的安全性を損なう瑕疵があるというべきである。福岡高裁の判断には民法709条の解釈を誤ったものである。

  4. 本件建物に、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるかどうか、ある場合は、それにより被ったXさんの損害があるか等さらに審理を尽くすため、本件を福岡高裁に差し戻すこととする。

品確法の10年保証を超える画期的判決


▲幸田雅弘弁護士
以上のように、最高裁は厳しく福岡高裁の判決を斥けました。差し戻しにはなりましたが、不法行為の成立は認められていますから、後は、基本的な安全性を損なう瑕疵があるかどうか、ある場合はXさんの損害があるか等を審理するほかはありません。

 品確法の瑕疵担保責任は、主要構造部と雨水が浸入する部分について、新築住宅購入者に対してのみ10年間保証されていますが、不法行為責任の時効は20年、瑕疵を知ってから3年であり、しかも、契約者だけでなく、そこに居住する者、そこで働く者、そこを訪問する者等建物利用者に訴訟をする資格を認めている画期的な判決です。
 高裁及び最高裁の原告側代理人を務められた幸田雅弘弁護士(福岡県弁護士会所属)は、「福岡高裁の判決は、不法行為について、構造耐力上主要な部分に限っており、建物所有権に対する不法行為の成立要件として不適切である。

 (構造耐力上主要部分でない)バルコニーの手すりの瑕疵であってもこれによって生命や身体を危険にさらすものであれば不法行為が成立するとの最高裁の判決を高く評価する。

 それにしても、地裁から最高裁判決まで、11年もかかった。差し戻しの裁判もあと1年くらい掛かると思うが、被害者立場からみて裁判のあり方に問題がある。」と述べておられます。


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