暴力団事務所の使用差止の仮処分において執行官保管が認められた例
− (福岡地方裁判所平成17年(ヨ)527号 不動産仮処分命令申立事件) −
松坂法律事務所
弁護士  松 直 史
  1. はじめに
     本件事案のマンションの一室は暴力団事務所(区分所有者は組長)になっており、平成17年8月に抗争相手の暴力団から拳銃や手榴弾で襲撃されるという事件が発生しました(防弾ガラスであったため組員は事なきを得ています)。長年、組事務所の存在に耐えていた区分所有者は、この事件を契機に暴力団排除に立ち上がりました。

     最近はマンションの一室に暴力団事務所が入居する例が多くなっています。それはマンションの増加や利便性といった理由のほか、中古マンションが取得しやすいことや建物の構造上外部の攻撃から守りやすいということも理由にあるようです。いわば一つ屋根の下に暴力団がいるわけですから、住民にとっては一戸建てに事務所がある場合に比べてより問題は深刻です。

  2. マンションからの暴力団事務所排除の法的手段
     では、マンションから暴力団事務所を追い出すにはどのような法的手段があるでしょうか。

     暴力団事務所が一戸建てにある場合と共通する方法として

    (1)人格権に基づく差止請求権を用いる方法がありますが、マンションの場合、(2)区分所有法57条以下の使用差止請求・引渡請求・競売請求を用いる方法があります。

    (1)の方法は、有名な「一力一家事件」や「秋田事件」といった一戸建ての暴力団事務所に対して認められています(もちろんマンションの例もあります)。人格権は法律上明文規定がないのに対して(2)の方法は明文規定があることから、マンションから暴力団事務所を追い出す場合、(2)の方法を用いるのが一般的です。

    (2)の内容としては、
    i  組事務所としての使用を禁止する
    ii 当該専有部分の使用を禁止する
    iii(占有者が賃貸人等の場合)
      区分所有者と占有者との賃貸借契約等を解除して引渡を請求する
    iv 当該区分所有権を競売する、というものです。

     ただし、訴えを提起しても判決を得るまで暴力団事務所と同居せざるを得ません。そこで、事前に組事務所の使用を差止めるために仮処分を申立てます。

     これまでは「組事務所として使用してはならない」との仮処分のみを求めることが一般的でした。この仮処分を暴力団に無視された場合、間接強制(違反行為について制裁金を課してもらう)によって実現します。しかし、住民が違反行為の監視をしなければなりませんし、金銭を請求するという困難にも直面します。そこで、執行官保管という方法があります。

     これは、使用差止の実現方法として暴力団から事務所の占有をとりあげ、執行官が保管するというもので、最も実効性がはかれます。この執行官保管は、これまで一戸建ての事務所に対しては数件認められていますが、人格権を理由にマンションで認められたのはおそらく本件が始めてではないでしょうか(マンション法を理由に執行官保管は多数あります)。

  3. 本件事案の結末
     本件事案では、人格権侵害を根拠に仮処分を行い、人格権のほかに区分所有法58条・同法59条による請求を加えて訴えを提起する予定でした。 
     
     本件で人格権に基づく請求を被保全権利とする仮処分を選択した理由は、人格権の場合、迅速に申立を行うことができかつ密行性が確保できることにありました。すなわち、区分所有法に基づく場合、事前に暴力団に「弁明の機会」を与えた上で「4分の3以上の多数による総会決議」が必要であり、この手続を行うのに時間がかかるとともに相手に動きを察知されてしまいます。

     そこで住民有志(有志といってもほぼ全員)だけを債権者として人格権に基づく使用差止の仮処分申立(執行官保管)を行いました。

     仮処分申立の数日後には仮処分決定が出て、間もなく当該事務所は執行官保管となりました。保全執行の途中で相手方にも代理人がつき保全異議が申立てられました。その審尋期日において管理組合が組長から区分所有権を買取る形で和解が成立しました。

     なお、抗争事件前の他の部屋の売出価格を参考にその価格から原状回復費用(防弾ガラスの撤去費用等)を差し引いた価格で買取りました。仮処分の申立から2ヶ月未満で和解が成立しました。


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