17.7.9セミナー講義録/マンションの耐震対策を考える。
− 次の地震に備えて −
京都大学講師/西澤 英和
阪神地震の実例(商業ビルの事例)
 これが、阪神の地震で見られた商業ビルの地震被害です。

 このような被害を中間層破壊といいます。ちょっと目には、被害はないように見えますが、建物の中間付近がつぶれていますので、もし就業時間中だったら、多数の人命が失われたでしょう。さらに深刻なのは、この階より上の人は、逃げようとしても、避難階段は圧壊していますので、火災が発生すると、ひとつの商業ビルだけで数千名が焼死する危険性をはらんでします。絶対に許されない破壊です。


2 阪神大震災の実例(マンションの事例)
 マンションで大被害が発生したのは、なんと言っても「ピロティ」形式の建物でした。
 「ピロティ」とは、1階を駐車場や店舗などにするために、もっとも大きな力が作用する1階に壁が少なく、柱だけで何層もの重い住戸を支えている建物です。

 調査では、一般の建物の約3倍も被害が多かったようです。この「ピロティ」の耐震対策は、実は驚くほど簡単で、費用も大してかかりません。
 耐震壁の増設するのが一番ですが、柱の断面を大きくしたり、柱を鋼板や炭素繊維で巻き立てて粘り強くする補強も増えています。

 また、軟弱地盤に建築されたマンションの中では、激しい地面の揺れで、基本杭が破壊されて沈下・傾斜した事例も目立ちました。

 このようなマンションは最近の埋立地だけでなく、良好な地盤であるはずの丘陵地でも発生しています。
 そのような場所の歴史を調査すると、昔は川や谷地、ため池であったころが多いようです。このため、自分のマンションがどのような地盤に立っているのか、自主的に調べてみてはどうでしょうか。

 古地図や、地質図、土地条件図、さらに洪水や土石流などの過去の被害の歴史調査が役に立ちます。

3 マンション復旧工事実例
 これは、芦屋アーバンライフというマンションです。地下2階に駐車場、地下1階に店舗を配するマンションですが、激震により地下1階、2階のピロティ柱の大部分が大きく破壊され、建物は30センチ沈下、下層の梁の大部分が折れました。下の判定基準で言えばV(倒壊)のレベルです。

 この建物が解体新築ではなく、大規模修復された最大の理由は、容積率の問題です。
 解体新築になれば、被災建築の特例措置を講じても、面積の3割減は避けられない。
 住戸の専有面積を7割に縮小するか、3割の住民が退去するかの選択をしなければならなくなります。
 そこでこのマンションの住民は深刻な議論の末、翌年2月に修復を決議しました。

 その修復方法ですが、一般に躯体が沈下した場合はジャッキアップすればよいのですが、この建物は、ピロティが二層にわたって、複雑に破壊されて構造的に危険な状況にある反面、住戸はほとんど傾斜せずに沈下していました。

 そこで、この場合はジャッキアップせずに損傷躯体を慎重に解体しつつ、耐震補強を施し、新しいRC造りに作りかえることにしました。

 工事は、96年4月着工、翌年2月竣工、費用は共用部分だけで、戸当たり730万円、全体で約3億円を基本的には被災者が自己負担しました。管理組合が使えたのは住宅金融公庫の無担保融資―リフォームローンが戸当り150万円のみでした。 

 一方取り壊す場合は、公費解体場合は、戸当たり坪あたり10万円・戸当たり約300万円。さらに仮設住宅の建設費は1戸当たり500万円なので、解体住戸ひとつについて約800万円、マンション1棟平均百戸として、解体マンション1棟あたり約8億円の税金が使われました。ここに、神戸の震災復旧施策の不公平さが現れています。もっとも、解体新築を選択した人はその後、改築に伴う多額の借金を負担せねばならず、結局はダブルローンに喘ぐことになりました。

 もし、このような巨額のマンション解体費と仮設住宅の建設にかかわる税金を、集合住宅の復旧補強費用に低利貸し付けするなど、米国と同様の弾力的な危機管理施策さえ行っておれば、すなわち被災マンションの解体誘導が行われていなければ、震災後10年以上を経た今日、これほど多くのマンション住民が銀行ローンで一生苦しんだり、自己破産に追い込まれたりしなくてすんだだろうといわれています。


4 九州のマンションの強度
 一般に九州の建物は、本州と比べて地震に弱いとわれています。それは次のような理由からです。

 耐震設計で最も重要な設計地震力、すなわちそれぞれの建物が、大地震が起こったときにどれくらいの水平力にまで設計上耐えられるようにするかの想定値は、全国決して一律ではありません。

 九州の建物はこのもっとも重要な設計値が本州に比べて、随分小さく設定してよいと建築基準法で定めてあるからです。

 つまり、設計用の地震力の基準値は全国一律に0.2G、つまり重さ10000トンのマンションら2000トンの水平力に安全に耐えられるようにするのが基本ではあるのですが、実務上はこの0.2という数値に補正係数を掛けて各階の設計用の必要水平力を算定します。

つまり、「設計用の地震時の水平力」
=0.2    全国一律の基準値
×[地域係数]    0.7−1.0
×「地盤の係数」
×「高さ方向の係数」
×「重要度係数」  1.0−1.5位

としています。

図は法令の定める地域係数の分布です。

 よく見てください。つまり 地域係数が1.0となっているのは、太平洋側を中心とした一部の地域に過ぎません。問題は九州です。九州全域はよくて0.9掛け、福岡など北九州地域は北海道の最北端と同じで0.8。沖縄に至っては0.7掛けです。

 気をつけて頂きたいのは0.8掛で設計した建物の耐震性能は、1.0掛の建物の八割かというとそうではありません。地震に耐える能力は、大きな地震力が加わったときに、建物が破壊されることなく、建物が撓ってどれだけのエネルギーを蓄えうるかによって大きく左右されます。

 したがって、ここで注意しなければならないのは、設計水平力を0.8掛にすると、実は変形も0.8掛けになり、そのため、変形と建物の抵抗力の積として定まる建物のエネルギーの蓄積容量は0.64倍にまで低下するという事実です。

 つまり、九州北部のマンションなどは、東京あたりの建物の実質約6割くらいの耐震性―耐震力まで低下するのですが、それでも良いと基準法では定められていることを地域係数の図は意味します。

 さらに、沖縄のように0.7掛とすると実質半分。これは考えてみると、実に恐ろしいことです。本州の太平洋側の都市なら殆ど被害がでないような地震でも、福岡なら甚大な被害を招くことがありうるからです。

 さらにもうひとつの問題が建物の固有周期を設計者が果たして実情に合うように仮定されているのかという問題が新耐震設計法ではついて回ることです。詳しくは申しませんが、現在の新耐震設計法では、建物の敷地地盤の硬軟とその上に建つ建物の一次固有周期の関係に応じて、設計用地震力を低減できるようになっています。

 それが、図に示す「地盤の係数」というのものです。簡単にいえば、硬い地盤に周期の長い建物を建てた場合には、建物が受ける地震力が小さくなるというものです。これは一種の柔構造の考え方を取り入れたものと考えてよいでしょう。

 ただ、このような低減を見込むためには、構造設計者は完成時の建物の固有周期がいくらになるかということについての、十分な工学的な知識が必要ですが、一般には壁を殆ど持たない純ラーメン構造の慣用式―つまり
「一次固有周期(秒)」=「建物の高さ」×0.02
を使うことが多いようです。

 マンションなど実質的に壁量の多い建物に、この式をそのまま使うと、完成した建物の本当の固有周期から相当かけ離れた固有周期を仮定することになる危険性が以前から指摘されてきました。

 言い換えると、一般には設計時の仮定固有周期が出来上がったマンションの真の値より相当長い周期になっている可能性があるのです。そうなると、建物には設計で仮定した力よりはるかに大きな地震力が作用し、これによって雑壁などは即座に破壊されるというようなことも起こりうることは構造技術者の常識といえます。

 このような固有周期による低減は、確か最大3/4くらいまで認められていたようですから、極端な場合、0.8掛のさらに3/4掛で、実質0.6掛の設計、すなわち、先の10000トンのマンションで、東京あたりなら2000トンの水平力を想定していたのに比べて、北九州では1200トンでも設計でき、さらに、これに変形の減少を加味しますとは建物の耐震能力としては本州の36%、ほぼ1/3というようなこともありうることを意味します。

 もちろんこれほど極端なことはまず考えられませんが、今回の地震を教訓に、福岡市内の全マンションの固有周期を網羅的に測定し、さらに設計時の仮定値とどれだけ乖離しているかを調べてみるべきだと思います。

 振動観測や振動解析は今ではだれでもできる簡単な手法にすぎませんので、是非地盤とともに一度精密にマンションの固有周期や固有モードを測定し、もし一次固有周期が0.1秒も異なっていれば抜本的な耐震対策を検討したらどうでしょうか。

 大都市福岡などが直下型地震によって大規模な都市災害に見舞われないようにするためには、このような基本的なことから速やかに始めるべきだと思います。

5 マンション補修の技術手順
 地震被害にあったマンションの修復の技術手順として、まず

STEP1 損傷状況・原因分析

実態調査を行います。
どこがどう壊れたか、その原因がなにであったか詳
しく調べないと今後の補修計画は出来ません。

STEP2 原因分析と修復の基本方針

 耐震性を高めるためにはどこからどのような手順で手をつけるのが合理的かなど「優先順位」と「費用対効果」を見極めます。

STEP3 補修方法の確定

 長期修繕計画を視野に入れて、無理のない耐震対策を進めます。
マンションの構造補強費は高いに違いないと思い込んでいる方が多いようですが、最近の贅沢な設備機器や、立派な内装の費用に比べると、安いです。

 公費の補助をあてにする必要はありません。外食を控え、旅行を1回がまんすれば、我々庶民で出せる金額です。

 何事も転ばぬ先の杖、私たちは「もし地震がきたら」と考えるのではなく、「地震が来たときは」と考えるべきです。今私たちに求められるのは、次の地震に立ち向かう「気構え」そしてわずかな「決断力」です。

6 これからの日本のマンション
 世界で一番地震に強い集合住宅といえばなんと言っても公団型のマンションではないでしょうか?

 しかし、今この型のマンションは人気がありません。
 これは、機能上の問題があるからだと思います。
 まず、公団型のマンションはエレベーターがありませんので、高齢者だけでなくても、病気や怪我のときなど上がり下がりが難しいです。さらに、住戸の独立性が強すぎて一般に狭いことがあげられます。

 つまり、公団型のマンションでは階段室を挟んだ2軒では、行き来は簡単ですが、それ以外の住戸に行く場合は、たとえ隣の住戸に行く場合でも、一旦階段をおりて、再度階段をあがらなくてはいけません。
 これが上層階に空きやが目立つ大きな原因となっているのではないでしょうか。

 そこで、このような公団型のマンションについて、次のような改修案を提案します。

(1)まず基本工事として、エレベーター、外部廊下をつけます。

 既存の階段室の外側に、構造的にまったく独立した鉄骨構造の外部廊下を設置します。エレベーターにより上下移動を外部廊下により横移動の円滑化をはかります。
 従来の階段室がなくなったことにより、そこは、各戸の玄関にでも取り込んではいかがでしょうか。

(2)置き屋根をつけます。

 陸屋根の代わりに置き屋根を新設してはどうでしょうか。皆さん大規模改修の際には、屋上防水にお金をかけていると思いますが、屋根をつけるとその費用も浮きます。瓦屋根などは最低60年は普通に持ちますし、部分修理も簡単です。そのため、既存の屋上防水はそのまま残し、屋根をつけるればよいのです。そうすれば、屋上防水、外部壁面への雨水の侵入、最上階の熱環境の問題を解決します。

 また、屋根をつけることによって、屋根裏の利用が可能になります。
屋根裏は、住民全体で使える集会室にしたり、ロフトにすることが出来ます。イメージ図は以下の通りです。

 集合住宅の大規模改修にあわせた、耐震対策と、このような楽しいリフォーム、リノベイションが今後のテーマといえましょう。  



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