管理費等の長期滞納者に関する判例紹介

▲弁護士 松坂 徹也
「管理費等の長期滞納者について当該滞納者所有のマンション(区分所有建物)に対する競売請求が認められた事例」

(福岡地方裁判所平成16年3月30日判決 平成15年(ワ)第4815号、建物区分所有法59条に基づく競売請求事件)


良好な住環境維持に管理費は不可欠

 マンションの区分所有者で長期間管理費や修繕積立金などの支払を滞っている人が多いのは困ったものです。管理費等はマンションの共用部分の維持管理を適切に行い、良好な住宅環境を維持するために必要不可欠な財源です。従って滞納者が多くなると十分な維持、管理ができなくなるわけで、管理組合にとって深刻な問題となります。ですから、管理組合としてはそうならないよう十分に気をつける必要があります。
とは言っても、管理組合の努力だけでこれを避けることはできません。不景気の世の中、一定の割合で長期滞納者が出てくることは覚悟しなければならないでしょう。

訴訟や先取特権の実行は

 このような長期滞納者に対しては訴訟による判決(最近、管理費等請求権の消滅時効期間は5年とする最高裁判決が出されましたので訴訟をする必要性はこれまでよりも高くなったと言えます。)あるいは、建物区分所有法7条の先取特権に基づいて滞納者の所有マンション(区分所有権)を競売にかけ、その代金から回収をはかることができます。そして不足分があれば、同法第8条により特定承継人である買受人よりこれを回収することができます。しかし、このような方法によって回収の実があがるのはそのマンションに抵当権が設定されていない場合か、設定されているとしても債権額がそのマンションの時価額を下回る場合に限られます。

抵当権付債権があれば回収困難

 抵当権付債権の金額がマンションの時価額を上まわるときは、裁判所は競売を取消してしまいます。その理由は抵当権には先取特権や判決に基づく権利よりも強い権利が与えられていることから、競売代金は全額抵当権者に支払われることになるので、申立人のために競売手続を続ける意味がないからです。従って、このケースの場合は特定承継人となる買受人が現れるということにはならず、競売による回収は効を奏しません。ほとんどの長期滞納者は所有マンションを住宅ローンも含めて抵当に入れており、しかも抵当債権額が時価額を上まわっているはずですから、競売は取消されてしまい、回収の実があがらないことになってしまうのです。そうなると管理組合としては打つ手がなくなり、お先真っ暗となってしまいます。

管理費回収の効果的手段

 ここまでの話は一般的な話としてどの管理組合もマンション財務をめぐる悲観的な事情として、理解しているはずです。
 しかし、簡単にあきらめてはいけません。もう一つ効果的な、実に効果的な手段があります。前置きが長くなりましたが、ここからが本判例紹介の本論となります。

 建物区分所有法6条は建物保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないと規定されています。
 そして同法59条は、共同の利益に反する行為によって区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を取り除いて区分所有者の共同生活の維持をはかることが困難であるときは当該マンションの競売を請求することができると規定されています。

管理費滞納は共同利益に反する行為

 管理費などの長期滞納は管理組合の財務基盤を危うくしますので、共同の利益に反する行為にあたると解されています。
 又、長期滞納によって財務基盤が危うくなることは、共用部分の管理が十分に行えなくなる事態へと発展するものですから、区分所有者の共同生活に著しい障害を与えることになります。
 そして前に述べたように判決や先取特権による競売は利用不能なわけですから、他の方法によってこの障害を除去することが困難であるということにもなります。

 以上から、長期滞納者に対しては建物区分所有法6条、59条によって競売請求をする道が開かれているということができます。そしてこの競売は判決や先取特権に基づく競売と違って、マンションの抵当権付債権の金額が時価額を上回っても競売手続が取消されることなく最後まで行われます。
 従って、確実に特定承継人たる買受人が現れるわけで、その方から回収することができるのです。

競売請求が認められるには

 もっとも59条による競売請求が認められるためにはいわゆる長期滞納というだけでは必ずしも十分ではなく高額の滞納が必要でしょう。加えてそれまでに訴訟などの色々な手を尽くしたけれども、回収に至らなかったというような事情も必要だと思います。

 本判決の事案は管理組合が滞納区分所有者を被告として支払を求める訴訟を提訴したところ、滞納者は滞納額を月々分割して支払っていくという裁判上の和解をしたけれども、そのほとんどを履行しておらず、加えて和解後の新たな管理費等についても、その支払いを全くしていないという事案ですが、裁判所はこの事案は建物区分所有法59条の要件を満たしているとして、競売請求を認める判決をしたものです。

 本事案の滞納金額は和解により分割払を約束した分が51万円、和解後のものが332,520円、合計842,520円と多くはないのですが、滞納者の態度が極めて悪いとして59条の要件を満たしていると判断されたものと思います。



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